『高知新聞』社説2012年9月1日付
【予算執行抑制】国民生活に影響及ぼすな
政府が2012年度予算の執行の抑制に踏み切る。本格的な抑制は初めてで、異例の事態といってよい。
国会の空転で、赤字国債の発行に必要な公債発行特例法案の成立が見通せないためだ。国民生活に影響を及ぼすことがないよう求めたい。
抑制の主な対象は政府の行政経費、国立大学法人と独立行政法人向けの運営費交付金、地方交付税の三つ。医療・介護や生活保護などの社会保障費、治安や安全保障・外交に関わる費用などは除いている。
地方交付税については9月の配分額を圧縮する。市町村には財政力を考慮して満額を配分するものの、道府県は予定の3分の1とし、残りは10月以降に先送りする方針だ。
道府県は交付税をさまざまな使途に充てている。配分先送りによって事業に支障が出ないようにするために、金融機関から一時借り入れをするなどの対応が必要になるだろう。交付金の一部が執行停止となる国立大などでも、運営に影響が出る恐れがある。
こうした事態を招いた原因は、野田首相の問責決議可決に至った与野党の激しい対立にある。
12年度予算では一般会計の歳入不足を補うため、約4割の38兆円余りを赤字国債で賄う。発行は公債法案の成立が前提となる。
衆院で法案を強行採決した与党に対し、野党は反発を強め、8日に会期末を迎える今国会での成立の見通しは立っていない。政府はこのままでは10月末にも財源が底を突くとして、節約に踏み切ったわけだ。
昨年も、野党が公債法案を当時の菅政権を追い込むカードとして使った。菅首相が成立を退陣3条件の一つにしたことから、決着が8月下旬にずれ込んだ経緯がある。
予算については憲法で衆院の議決の優越が規定されているが、関連法案は一般の法案と同じ扱いだ。衆参の多数派が異なる「ねじれ」状態下では、今後も公債法案をいわば「人質」にする手法が繰り返される可能性は否定できない。
国民生活に影響を及ぼしかねない混乱を避けるため、与野党は公債法案を駆け引きの材料に使わず、予算本体と同じように扱う方策について真剣に考えるときだ。12年度予算の円滑な執行に向けて、与野党が歩み寄ることがその一歩となる。