『東京新聞』社説2012年8月28日付
法科大学院 学生を失望させぬよう
法科大学院が若者の期待を裏切っている。司法試験の合格率が低下を続け、志願者も激減しているのだ。定員割れの学校も大半だ。真面目に勉強すれば、70%程度が合格できる制度へと導くべきだ。
23・5%-。昨年の司法試験の合格率だ。年々、減少し続け、過去最低となった。法科大学院を修了して、三回の受験資格を使った者の合格率でみても、50%をやや上回る程度にすぎない。
厳しい現実は、法曹をめざす若者を尻込みさせる。法科大学院制度がスタートした二〇〇四年度には、志願者数が約七万三千人もいたのに、本年度は約四分の一にまで下がった。
入学者数も、ピークだった〇六年度の約五千八百人から四割以上も減った。
深刻なデータはもっとある。文部科学省の調査で、今春、学生を募集した法科大学院七十三校のうち、86%に当たる六十三校で、入学者が定員を下回ったのだ。定員の半数に満たなかったのは、そのうち三十五校にものぼった。
募集しても、学生が集まらない。入学しても、司法試験に合格できない-。授業料を負担する学生に見放されても当然で、こんな悪循環は放置できない。七十四校も乱立したのが、最大原因だ。
すでに五校が学生の募集停止を決めたが、自然淘汰(とうた)だけでは限界があろう。入学者がわずか一桁の学校が二十校もあるが、切磋琢磨(せっさたくま)の授業が成り立つだろうか。最も迷惑するのが学生だ。
そうした大学には、まず自主的に撤退を促すべきだ。さらに定員充足率や司法試験合格率などを総合的に勘案した基準を設け、統廃合を進めるときではないか。政策的な再編は不可避だろう。
ただし、地方の学校は将来、地元に定着する弁護士を育てる意味でも特例的に考えた方がいい。全国に適正配置することは必須だ。
法科大学院は司法制度改革の柱の一つだ。裁判官や検察官、弁護士などの法律実務家が、研究者と協力して、充実したカリキュラムを持つ。法曹専門の教育機関として、もっと発展させたい。
法曹養成制度を見直す国の検討会議が発足する。身近で頼りがいのある法律家を輩出する理念と、厳しい現実との溝をどう埋めるか。多様な分野から人材をどう集めるか。貧しい学生への奨学金制度なども、さらに充実させるべきだろう。勉強すれば、法曹の道に入れる-。学生が希望を持てる改善策を打ち出してほしい。