『北海道新聞』社説2012年8月27日付
法科大学院 さらなる改革が必要だ
弁護士や裁判官、検察官を育てる法曹養成制度が混迷を深めている。
司法試験合格率の低さなどから、8年前に創設された法科大学院は入学者が激減し、閉鎖も相次いでいるからだ。
年間3千人を法曹界に送り込むとした政府の目標も破綻状態にある。
政府は合格者目標の引き下げや大学院の統廃合などを念頭に、有識者検討会議を設置した。
見直しが、単に大学院の開設数や目標を絞り込むだけの数合わせで終わることがあってはならない。
そもそも制度改正には、司法試験に合格さえすれば法曹界に入れる従来のあり方を改め、社会人も取り込んで、法律家としてふさわしい教育を施す狙いがあった。
こうした狙いは十分に浸透したのか。まずその検証が不可欠だ。
大学院の教育力や大学院生の質を高めて合格者を増やすだけではなく、弁護士の偏在を改める抜本的な改革に取り組むことも重要だ。
法科大学院は、司法試験の年間合格者を当時の1千人から2010年ごろに3倍にする政府目標を掲げ、04年に開設された。修了すれば司法試験の受験資格が得られる。
ところが、今春は全国73校の半数で定員の半分に満たなかった。道内2校の定員充足率は、北大90%、北海学園大は60%だった。
背景には、大学院の乱立があり、これに伴い大学院生の質が低下したとの指摘もある。当初、修了者の7、8割と想定した司法試験合格率は2割台まで落ち込んでいる。
司法試験が狭き門で、合格しても十分な弁護依頼がないとすれば、敬遠されるのは当然だろう。新任弁護士の収入が減少傾向にあることも見逃せない。
制度改正後、道内では弁護士が800人を超えるまで増えた。その面で一定の効果は出ている。
ただ、裁判官が常駐せず、1カ月に3日程度しか法廷が開けない地裁支部は道内16カ所のうち10カ所に上る。弁護士事務所がない市町村も8割を超している。
深刻な「司法過疎」は依然、解消されていない。
合格者の就職が難しいとされるのは、都市部への偏在が大きな原因でもある。検討会議はその視点を忘れてはならない。
もう一つ看過できないのは、法科大学院のしわ寄せで、法学部からそのまま大学院に進んで研究者を志す学生が減っていることだ。
法学は政治学や国際関係論、憲法学など多岐にわたる。やせ細っては国の将来を担う人材が不足する。
この問題も、法科大学院のあり方と一体で考えてもらいたい。