京大元教授逮捕/研究費不正絶つ仕組みを『山陰中央新報』論説2012年8月7日付

『山陰中央新報』論説2012年8月7日付

京大元教授逮捕/研究費不正絶つ仕組みを 

 研究費の不正がついに収賄事件になった。物品納入に便宜を図った見返りに渡されたクレジットカードを自由に使い、医療機器販売会社に負担させたとして、収賄容疑で京都大大学院薬学研究科の元教授(6月28日付で辞職)の辻本豪三容疑者が東京地検特捜部に逮捕された。

 事実の解明は捜査の結果を待ちたいが、研究費を多く獲得する著名な研究者の逮捕にまで至ったのは異例である。日本の研究を揺るがす大事件として受け止めるべきだ。

 研究費の不正はこれまで何度も繰り返された。研究費の不正使用が内部告発で明るみに出た。しかし、大半は大学などの内部調査を基に、懲戒処分や役職の辞任、研究費返還で処理されてきた。

 そこには、研究者の自律性や、産学協同研究の必要性、学界の自浄作用を尊重する捜査当局の抑制が利いていた。大学や文部科学省は研究費の不正問題で何度も包括的な調査を重ねてきたが、自主申告を基本にしており、公表されるのは”氷山の一角”にすぎない。辻本元教授も10年以上、研究費不正が見逃されて、深みにはまっていった。

 不正防止のために科学者の倫理規範を日本学術会議が策定しているが、現場への浸透は弱い。研究費の不正をもとから絶つ仕組みが必要である。

 日本の研究費は”科学技術創造立国”を掲げる科学技術基本法が施行された1995年から増え続けた。一方で、脚光を浴びやすい応用研究に予算が集中する傾向が強まった。創薬に結び付く医療研究は政府の成長戦略でも重視されてきた。

 辻本元教授は、解読が急激に進むゲノム(全遺伝情報)を手掛かりに新薬を開発しようとするゲノム創薬研究の第一人者として頭角を現した。政府の最先端研究開発支援プログラムでは、ノーベル化学賞受賞者の田中耕一島津製作所シニアフェローが主導する研究プロジェクト(2013年度までに約40億円)の一翼を担うまでになった。

 そのために京大薬学部に最先端創薬研究センターが10年に創設され、そのセンター長に就いていた。地道な研究より、ビジネスのように巨額の研究費を集めてくる教授が評価されがちで、批判されないまま、不正が起きやすい環境ができる。

 最近は各省庁や企業などから研究費をかき集める有力な研究者も少なくない。使い切れないほどの研究費を特定の個人に流せば不正を誘導する。研究費の極度の集中は避けるべきだ。

 年度内に使い切れず業者に架空請求したりカラ出張したりして研究予算を”預け金”としてプールし、自由に使う手法が不正のほとんどだ。辻本元教授の場合も、これが業者と相互依存の癒着の温床になった。

 確かに研究予算の執行が遅れて物品の購入が間に合わないようなケースは多い。基金化して年度を越えて使えるようなルールは必要だろう。研究費の適正執行のため、優秀な事務スタッフが関与するようにもしたい。

 辻本元教授の研究では、遺伝子情報を解読する最新分析機器などの購入費に予算がかなり投じられた。ハコモノ研究といえる。そうした研究にはより強い監視が望ましい。京大と文部科学省は徹底的に調査し、再発防止策を示す義務がある。

 

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