[京大元教授逮捕] 不正できない仕組みを『南日本新聞』社説2012年8月12日付

『南日本新聞』社説2012年8月12日付

[京大元教授逮捕] 不正できない仕組みを

 物品納入の見返りと知りながら業者から提供されたクレジットカードを飲食や家族が使う電化製品などの購入に使っていたとして、京都大学大学院薬学研究科の元教授辻本豪三容疑者が、収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。

 辻本元教授は、ゲノム(全遺伝情報)から新薬を開発する研究の第一人者として誰もが認める存在で、「研究費をたくさん取ってくる研究科の“稼ぎ頭”」としても知られていたという。

 研究費の不正はこれまで何度も繰り返されており、日本学術会議が不正防止のための倫理規範を策定しているが、研究費に比較的恵まれた著名研究者が逮捕に至ったのは異例だ。東京地検は癒着の構図を徹底解明してほしい。

 日本の研究費は、“科学技術創造立国”を掲げる科学技術基本法が施行された1995年から増え続けた。なかでも脚光を浴びやすい応用研究に予算が集中する傾向が強く、創薬に結びつく医療研究は、政府の成長戦略でも重視されてきた。

 辻本元教授が、ノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一シニアフェローと共同提案した薬開発プロジェクトは、内閣府が推進する最先端研究の一つに選ばれ、2013年度までの4年間で総額40億円の助成が決まっていた。10年には京大薬学部に最先端創薬研究センターが創設され、辻本元教授が施設長に就任した。

 研究費の不正は、年度内に使い切れなかった予算で業者に架空請求したりカラ出張したりして“預け金”としてプールしておき、後で自由に使う手法がほとんどだ。辻本元教授のケースも、これが業者との癒着の温床となった。

 背景には、地道な研究よりビジネスのように巨額の研究費を集めることのできる研究者が評価されがちな現実がある。だが、使い切れないほどの研究費が特定の個人に集まれば、不正が起きやすい環境が整うことになる。研究費の極度の集中を避ける工夫が必要だ。

 研究予算の執行が遅れ、研究機材を購入できないこともある。そんなときに備えて不正資金をプールしなくても済むよう、予算を基金化して年度を越えて使えるようにすることも考えたい。

 辻本元教授の研究では遺伝子情報を解読する最新分析機器などの購入にかなりの予算が投じられた。機材の購入に大金がかかる研究では、研究費の適正執行のため、独立した事務スタッフの関与を義務付けることも考えなければなるまい。重要なことは、研究費の不正をもとから断つ仕組みをつくることである。

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