奨学金制度拡充/政策の優先順位を上げよ『河北新報』社説2012年8月13日付

『河北新報』社説2012年8月13日付

奨学金制度拡充/政策の優先順位を上げよ

 家計が厳しさを増し、子どもの貧困率が上昇傾向を見せる中、奨学金制度の充実を求める声が高まっている。

 経済的な負担を理由に進学を断念する。十分な教育が受けられないことで希望する仕事に就けず、苦しい生活から抜け出せない-。奨学金はそうした「貧困の連鎖」を断ち切るための足掛かりでもある。

 家庭の経済力で将来が決まってしまうとすれば、あまりに理不尽だ。個人の努力では突破できない。家計が学ぶ機会を遠ざけ、飛躍の可能性をしぼませる状況の放置は、行政の不作為と言っていい。社会の公正さを損ね、持続的な安定と活力をそぐことにもなる。

 奨学金を利用する学生は増え続け、その割合は2人に1人を超えている。所得の落ち込みとともに親からの仕送りは減る一方で、家庭外の支援措置は重要性を増している。進学を支える最後の「セーフティーネット」でもあり、使い勝手のいい制度への改善を急ぎたい。

 要となる日本学生支援機構の公的奨学金は原則貸与だ。かつては無利子(1種)中心で、利用者の拡大とともに有利子(2種)貸与が多くなっている。

 借りたお金は返すのが道理だが、雇用経済環境の厳しさから返済が重荷になっている。失業率の高止まりや収入の乏しい非正規労働が一般化しており、滞納を余儀なくされるケースが目立つ。

 文部科学省は本年度、返済を猶予する所得連動型の制度を導入したものの、延滞金などの負担は重い。利用者の年収に応じたきめの細かい柔軟な返済の仕組みを検討するべきで、一定収入以下の人には無利子の導入や免除などの措置も考えたい。

 日本の教育にかける公的負担は世界最低レベルにあり、学費が高い割に支援体制が貧弱だ。無利子を原則にするぐらいの見直しを図っていいし、多くの主要国が設けている返済を伴わない「給付型」に踏み込みたい。被災・避難家庭への目配りも欠いてはいけない。

 文科省は2012年度予算の概算要求に給付型の導入を盛り込んだが、財源が確保できず、最終的に見送られた。

 消費増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案で、政府は高齢者とともに若者・子どもを重視する考えを強調している。給付型を取り入れる好機であり、あらためて概算要求に盛るなど、将来世代を大事にする姿勢を形にしてはどうか。

 有力大学が地方出身の学生を対象にした奨学金制度を拡充させている。少子化の加速を受けた学生の獲得競争の側面が強いが、授業料の減免などを含めた支援措置は歓迎したい。

 困難な時代を切り開く学生らへの支援は、人的なインフラ整備を意味する。質の高い人づくりは国際競争を乗り切る不可欠の要素だ。教育にお金がかかることが要因の一つとされる少子化対策にもなり得よう。

 奨学金制度充実を図る政策の優先順位は間違いなく、高い。

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