地方出身者への奨学金充実 首都圏有力大が囲い込み 優秀な学生、寮費免除 「地元国公立大志向」に危機感『日本経済新聞』2012年7月12日付

『日本経済新聞』2012年7月12日付

地方出身者への奨学金充実 首都圏有力大が囲い込み 優秀な学生、寮費免除 「地元国公立大志向」に危機感

 有力大学が地方出身の学生を対象にした奨学金制度を拡充させている。早稲田大や慶応義塾大が新入生向けの制度を相次いで創設。景気の低迷などで地元国公立大志向が強まる中、優秀な地方出身者を囲い込もうと懸命だ。迎え撃つ国立大も、学費のほか寮費の全額免除など、思い切った支援策を打ち出しており、学生争奪戦が激化している。 

 慶応大は今年度から「学問のすゝめ奨学金」を始めた。受験前に申し込み、入学試験に合格すれば実際に年間60万~90万円を返済不要の給付金として受けられる。

 対象は首都圏以外の出身者に限定。全体の募集人数は計107人だが、地域ごとに上限があり、受給者の出身地が偏らないように配慮した。実際に入学し、奨学金を受けている1年生は30人。大学には「親に受験を認めてもらえた」「安心して上京できた」などの声が寄せられているという。

 早稲田大も2009年度から「目指せ!都の西北奨学金」として同様の地方出身者向けの奨学金制度をスタート。500人を定員に、年間40万円を援助している。高校時代の成績や世帯年収などを踏まえて採用しているという。

 早慶がこうした地方出身者への優遇措置を相次いで打ち出す背景には、08年のリーマン・ショック以降の「地元国公立志向」に対する危機感がある。文部科学省の学校基本調査によると、地元都道府県への進学率(全国平均)は2010年度には41.9%と、01年度の39.1%から2ポイント以上増えている。

 慶応の場合、1990年度に67%だった関東・甲信越の出身者が2010年度には71%に。出身別の合格者人数の上位には首都圏の高校がずらりと並ぶ。清家篤学長は「このままでは関東のローカル大学になってしまう」と危機感を強める。

 学部学生だけでなく、大学院生を対象にした制度も。立命館大は今年度、大学院に直接進学する学生80人を上限に、年間40万円を給付する奨学金を新設した。「せっかく学部で学んでも、学費の問題で国立大などに流れてしまうのはもったいない」と同大学。

 同志社大も今年度、博士課程の在籍者で34歳未満であれば全員、3年間の学費や実習費などを全て無料にする制度を打ち出した。「思い切った支援策で優秀な人材に来てもらい、大学院の研究力を高めたい」としている。

 資金力に恵まれ、経済的に苦しい学生への奨学制度がもともと手厚い国立大でも思い切った学費減免策が現れた。

 新潟大は11年度入学者分から、最大50人に対して4年間の学費を免除する高校生向け予約制度を開始。何かと物入りな入学時には返済不要の40万円を別途給付する上、自宅外通学の場合は無料で寮に入居させている。

 東京大は08年度から家庭の給与所得400万円以下などを目安に、人数制限のない学費の免除制度を始めた。期限は半年間だが、入学から卒業まで何度でも申請でき、4年間の学費を無料にすることも可能だ。700人以上がこの制度を使っているという。

 さらに10年度、キャンパスからほど近い東京都文京区内に学生寮がオープン。既存の寮2カ所と合わせ計約1000人(留学生、大学院生を含む)が月1万~3万6千円程度の費用で入居できるようにした。

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総額9400億円 97%が「貸与」

 奨学金には大学独自の制度のほか、日本学生支援機構(旧日本育英会)による貸与奨学金、自治体や民間の財団などによる貸与や給付型の奨学金などがある。同機構の調査(2007年度)によると、制度数(高校生向けなどを含む)は計約4700件。学生の延べ人数別では機構が約7割を占める。

 同調査によると、総額は約9400億円だが、うち機構が約8200億円。金額別では貸与が全体の97%に上る。米国の場合、大学生向け奨学金の半分近くが給付型で大学でアルバイトすることなどを条件に学費が免除される制度もある。日本には返済の必要がない奨学制度が少ないことが課題とされている。

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受給学生数、5割超える

 何らかの奨学制度を利用している学部学生は50.7%と調査を始めた1968年度以来、初めて半分を超えたことが日本学生支援機構の調査で分かった。同機構の貸与奨学金利用者も89年度の43万人から2010年度には123万人と約3倍に増加。同機構は「制度が充実してきたこともあり、大学生にとって奨学金の利用は一般的になりつつある」としている。

 同機構の10年度調査によると、学費や生活費などを含め、大学生1人あたりの年間支出は平均で183万円。自宅から国立大に通う学生の場合は108万円だが、私立大で自宅外通学だと236万円など、学生の状況によって差も大きい。

 家庭の経済状況が厳しくなる中、奨学金の役割は重要度を増している。学生の収入に占める仕送りの比率は61.7%(10年度)で、その2年前と比べ4.2ポイント低下、奨学金は20.3%(同)と5ポイント増えた。

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