教員免許更新制の廃止先送り 中央審議会最終まとめ案『朝日新聞』2012年7月12日付

『朝日新聞』2012年7月12日付

教員免許更新制の廃止先送り 中央審議会最終まとめ案

 自民党から民主党に政権交代したあと、このコラムで何度も取り上げたのが、民主党がマニフェストで掲げた「教員養成課程6年制(修士化)」の政策だった。

 自民党の安倍晋三政権時代の教育改革をきっかけに、教員には10年ごとに免許を更新する制度がつくられ、大学などで専門知識を深める講習を受けることが義務づけられた。更新しなければ免許は失効する。それが、教員の資質を向上させる方法だと自民党政権では考えられた。

 しかし、民主党は現状では教職課程を学部で受ける養成プロセスを見直して教職大学院など修士レベルの水準に教職養成をすることで、教員の質向上を目指した。自民党と民主党の方向性は異なる。

 2009年に始まったばかりの免許更新制は多くの人が廃止される方向だと思っていた。そして民主党マニフェストのように教員の養成が見直されると考えら れていた。制度改革の議論は2010年6月から中央審議会で続けられ、ようやく今年6月25日に最終まとめ案が報告された。7~8月には答申が出されると みられ、一応の決着をつけることになる。

■教員養成6年制は中長期的課題に

 最終案によると、その内容は、簡単に言えば、免許更新制の廃止を先送りして、教員養成の6年制は教職大学院など修士レベルの大学院を充実させながら中長 期的に実現させるものとなっている。全体的に、これまでの民主党の主張を取り入れながら、自民党時代の政策(免許更新制)とも当面は併存することになる。 いますぐに、教員免許の仕組みが変わるわけではない。しかし、教職大学院などで学びながら修士レベルで教員を養成していく方向になった。

 細かくみると、教員免許状は三つの方向に改革するという。まずは学部教育で取得できる「基礎免許状」(仮称、以下同じ)、次いで学部4年に加えて1~2 年の修士レベルで取得する「一般免許状」、さらにより高い専門性を身につけたことを証明する「専門免許状」だ。現行制度を考えると、いまの教員免許はおお むね学部4年で取得できるので基礎免許状の水準にあたる。しかし、中長期的には一般免許状が主体となるはずなので、教職大学院や大学院修士課程で学ぶこと が一般的になる必要がある。ちなみに、免許更新制の扱いは「詳細な制度設計の際に、さらに検討を行うことが必要」と盛り込まれている。

 では、現状で修士レベルの一般免許状が主体になることが可能かということになると、かなり難しい。基礎免許状はいまの教員免許と同じだからいいとして、 とくに私学は自前で修士レベルにあたる教職大学院などの整備をするにはさまざまな人的設備的な資源が必要になる。だから一般免許状を取得できるような環境 にはまだ遠い。最終案では、教職大学院の拡充・発展のほかに、国公立私立大学の学部、修士の間の連携を推進することが盛られている。教職大学院の量的な拡 充と、教員養成系大学を中心にカリキュラムを修士レベルで編成して一般免許状を取得できる水準にする方向性らしい。

 しかし、大学の関係予算に関しては、財政当局からかなり注文がつき、再編・統合の方向に動かざるを得ない。当然、全体として縮小方向にあるなかで、教員養成の場になる教職大学院や教育系の大学院にどの程度予算を配分できるのか方向はまだ見えない。

■民主の中核的政策のはずが

 この「教員養成課程6年制」が政権交代直後に注目されたのには理由がある。政治的な意思で自民党政権が導入した教員免許更新制を民主党政権が速やかに廃 止できるかという政治的な側面である。それは民主党がマニフェストで掲げた政策にどう責任をもつのかという問題でもある。もう一つは、「コンクリートから 人へ」という民主党の理念を実現するために、この「6年制」の政策が大きな推進役を果たすとみられたというところにある。新たな時代の担い手になる教員を どう育てるのかはっきりさせることは、子どもや若者をどう教育するかという根幹に結びついている。政治的にも教育政策としても真ん中の政策だった。

 政権交代から3年過ぎた夏。「6年制」については一定の結論を出すことになりそうだが、目の前の変化よりも、制度的な骨格がそれほど明確ではない中長期的な充実を選んだことになる。民主党政権では、この問題も他の省庁の政策と似たような経過をたどったといえる。

 

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