国立大改革:一法人が複数大学運営 事務統一、効率化 文科省案『毎日新聞』2012年6月5日付

『毎日新聞』2012年6月5日付

国立大改革:一法人が複数大学運営 事務統一、効率化 文科省案

 文部科学省は4日、政府の国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)で国立大学改革を柱とする教育改革案を報告した。ひとつの国立大学法人が複数の大学を運営できる「一法人複数大学・アンブレラ(傘)方式」などを想定。各大学16件が得意とする分野の学部を選び、研究費や人材などを特化。都道府県を超えての再編も検討する。【石丸整】

 現在、国立大は86あり、国立大学16件法人法で一つの大学法人が一つの大学のみ運営できると定められている。アンブレラ方式は、例えばA大学を法学部と経済学部に、B大学は理学部と工学部に特化し、一つの国立大学法人の下に集約して運営する。民間の持ち株会社(ホールディング)をイメージしており、大学間の連携も目指す。人事管理などの事務を統一することで効率化も期待できるという。

 アンブレラ方式の導入は国立大の各学長が決めるため、どの程度の大学が導入するかは不明だが、文科省は予算を大学ごとに重点配分することで改革を促す。このほか、国公私立大が共同で研究所を設立したり、海外の大学と教員派遣や教材の提供などで連携することも想定している。

 一方、私立大について文科省は、国際化や成長分野への人材育成に取り組む大学16件に予算を重点的に配分しながら、経営改善の見込みのない大学へは私立学校法に基づく解散命令を出すなどして統廃合を促すとした。東京大などが導入を検討している秋入学については、各種の国家試験や資格試験、公務員制度の検討をするにとどめた。また、高校を2年で卒業して大学進学できる制度創設も盛り込んだ。

 4月の国家戦略会議では、国立大への運営費交付金のメリハリのある配分や私立大も含めた統廃合の促進を含む大学改革案を求められていた。

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■解説

 ◇学部集約、慎重な議論必要

 文部科学省が大学改革に乗り出したのは、大学進学率が5割に達し、入学定員と志願者数が均衡する「全入時代」の到来で「質の低下」が指摘される背景があるためだ。

 入学定員数で私立大(約45万4000人)の約2割の国立大(約9万6000人)が、予算では3倍超の約1兆1400億円の運営費交付金を受けていることも改革の必要性を高めている。

 改革で文科省がイメージするのは学部や研究分野の選別だ。ある大学の理学部は戦前から化学分野で優れた研究を続けていたり、別の大学の教育学部は前身が師範学校で定評があったりする。大学が「強み」に特化することで教育の質向上につなげたい狙いがある。

 だが、改革を進めると医学部や教育学部など特定の学部がなくなる都道府県が出てくる可能性もあり、大学や地域の反発も予想される。人材供給や地域経済に大きな影響を与えるおそれもある。さらに慎重な議論が求められる。【石丸整】

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