[教授の力(上)] 医師派遣の実権握る 公平なシステムを模索『秋田魁新報』2012年5月28日付

『秋田魁新報』2012年5月28日付

[教授の力(上)] 医師派遣の実権握る 公平なシステムを模索

 複数の臨床系講座(医局)の研究室などが入った築39年の建物の中は昼間でも薄暗く、人影もまばらだ。

 臨床系講座の教授室などがある臨床医学研究棟 2006年12月21日夕。3階にある講座の教授室を1人の男性が訪ねた。

 「研究の補助に使ってください」。男性がこう言って差し出した封筒を、教授は受け取った。男性は教授の講座から医師派遣を受ける由利本荘市の民間病院長。封筒には現金100万円が入っていた。

 秋田大医学部で昨年10月以降、2人の教授の不祥事が相次いで発覚。一つは、医師派遣先の病院から現金100万円の提供を受けた男性教授(64)の事案だった。

 男性教授は今年3月、就業規則違反で大学から停職1カ月の処分を受けた。しかし、県警や秋田地検の捜査や、学内の調査でも、現金の趣旨は明らかにならなかった。

 現金は何を意味したのか―。

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 臨床系講座の教授の持つ権限の一つに、医師派遣における人事権がある。

 秋田大医学部は県内各地の病院に常勤、非常勤を合わせ、多くの医師を送っている。ほとんどの病院は、大学からの派遣なしに診療や運営が成り立たないのが実情だ。

 02年以降、東北大や北海道大の医学部で、医師派遣先病院から金銭提供を受けるなどの不祥事が発覚。大学からの医師派遣の仕組みを見直す動きが全国的に広がった。

 秋田大でも04年から常勤医の派遣要請を受け付ける窓口を一本化。医学部長や病院長、各講座の教授らで構成する地域医療検討委員会が人事を判断することになった。

 公平で透明な人事を目指す改革のはずだったが、実効性を疑問視する声は根強い。医学部の多くの教授や県内の病院関係者は「窓口一本化は有名無実。結局、人事権を持つのは教授」と口をそろえる。

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 医師派遣は、診療科別などに設けられた講座単位で行う。ある病院関係者によると、派遣を希望する診療科の教授に打診し、了承が得られれば正式に医学部に要請するというのが一般的な流れ。教授とのパイプの有無が、要請を受け入れてもらえるかどうかに影響することもあるという。

 こんな声もある。過去に医師確保業務を担当した県内のある市の職員は、地元の民間病院関係者と年数回の教授へのあいさつ回りを欠かさなかったという。「病院関係者がのし紙のない茶封筒を教授に手渡しているのを5、6回見た。中身は分からないが、医師を派遣してもらうのは大変なことだと感じた」

 教授の不祥事を受け、秋田大は派遣システムの改革を検討している。4月に就任した澤田賢一医学部長(兼大学院医学系研究科長)は言う。「各講座の教授に話を聞かずに派遣要請を判断することは難しい。どんな透明性ある仕組みでも人事権は付きまとう。ただ、疑念を抱かせる行為はあってはならない」

秋田大医学部

 1970年創設。国立大では戦後最初の新設医学部。71年に県立中央病院が国に移管され、医学部付属病院として開院した。2002年に秋田大医療技術短期大学部が医学部保健学科に改組され、医師養成の医学科と、理学療法士や作業療法士、看護師などを養成する保健学科から成る。医学科は6年間、患者を診察する臨床医学(内科学や外科学など)と、人体構造などに関する基礎医学(解剖学や生理学など)について学ぶ。今春までの医学科卒業生は計3510人。所在地は秋田市本道。

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