(6)支援側に回って自信『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月21日付

『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月21日付

(6)支援側に回って自信

 昼下がりの保健室に、一人、また一人と学生が集まってくる。テーブルの上には、せんべいとチョコレート。4月16日、南山大学の瀬戸キャンパス(愛知県瀬戸市)。馥郁ふくいくとした紅茶の香りが漂うなか、自閉症やアスペルガー症候群の学生らを対象にしたピア・サポートのグループ「セトゼミ」は始まった。

 この日のテーマは、単位取得の攻略法。保健室室長で精神科医の早川徳香・専任講師(40)が、「授業はどう?」と学生たちに話しかけていく。「き つい授業ほど必修なんだよなあ」とみんなを笑わせたのは、情報理工学部2年の永田学さん(19)(仮名)。「友人が少ない自分には、1回の欠席が致命傷。 他の人にノートを借りるのが難しいから」

 セトゼミがスタートしたのは、2009年。月に1回、勉強を教えたいという学生も含め約10人が参加する。発達障害の学生だけでなく、自分から対人関係を築くのが難しい学生に交流の場を提供し、情報を交換して修学を達成してもらうのが目標だ。

 室長の早川さんは、「先輩や友だちとのおしゃべりで試験対策を聞き出すことも、コミュニケーションが不得手な学生には難しい。その結果、留年や退学してしまう学生も少なくない」と説明する。

 自閉症やアスペルガー症候群の学生は、入学までにいじめを経験し、自己肯定感が低い場合が多い。だが、セトゼミで自分の勉強法が評価され、受け入 れられると、自尊感情が高まっていく。「不足部分を補う凹のサポートを受けるのと同時に、他者を支援する凸のサポートにも回ることで、社会適応性の向上が 見られる」。早川さんはそう強調する。

 高機能自閉症の診断がある永田さんは、小学生の頃から激しいいじめに遭ってきた。「弁当をひっくり返されたり、暴力を加えられたり……。こっちも反撃したけれども」と振り返る。

 親の助言で、セトゼミに参加したのは11年秋。誰も理解してくれなかった現代史への精通ぶりを、「すごい」と認めてもらえたのが自信となった。「コミュニケーション能力が絶望的なのであきらめていたが、セトゼミを足がかりに友だちを作ってみたい」

 生き生きと歴史の知識を披露する現在の姿は、いつも下を向いていた半年前の永田さんからは想像もできない。「友だちを作ってみたい」という言葉に、早川さんは彼の大きな成長を実感している。(保井隆之、写真も)

 ピア・サポート 「ピア」は仲間の意味。同じ背景を持つ仲間同士が一緒に時間を共有し、対等な立場で話し合い、悩みや考えを聞き合いながら、お互いを支え合う活動。友だち作り、カウンセリング的アプローチ、葛藤解決の3種類の支援の形がある。

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