『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月20日付
(5)専門の調整役が支援
「目から入る情報と、耳から入る情報とを統合するのが苦手です」。
4月13日、関西学院大学(兵庫県西宮市)のキャンパス自立支援室。人間福祉学部2年の中村哲也さん(19)(仮名)が、困っていることを淡々と説明してくれた。
入学して間もなく、教員がスライドを使いながら話し続ける授業につまずき、大きなストレスを感じた。ゼミの担当教員の勧めで医師の診察を受けると、「視覚と聴覚の情報の同時処理につまずく」との所見がついたため、自立支援室を訪れた。
支援室では、発達障害専門のコーディネーターである鈴木ひみこさん(26)が対策を検討。事情を担当教員に説明し、「スライドを印刷したレジュメ を渡してほしい」と頼んでくれた。スケジュール管理が苦手で、テストが重なると混乱し、単位を落としてしまうことがある中村さんのために、優先順位が一目 で分かるスケジュールも作ってくれた。
「先生の配慮で、授業が分かりやすくなった」と中村さん。「大学院に進学し、人間の身体構造などを研究したい。2次元を瞬時に頭の中で3次元に置き換えることができ、空間的処理には自信がある」と目を輝かせた。
1910年代に視覚障害の学生を受け入れるなど、同大の障害支援は長い歴史を持つ。2006年には、自立支援室の前身となるキャンパス自立支援課を設置。障害学生を支援するコーディネーターを置き、ノートテイクなど学生有償ボランティアの育成を本格的に始めた。
だが、発達障害への対応は手薄だった。臨床発達心理士などの資格を持つ鈴木さんも、11年に採用されたばかりだ。米山直樹教授(43)(臨床心理学)は「視力や聴力など基準が分かりやすい他の障害に比べ、発達障害はどこから支援すべきか、その判断が難しい」と説明する。
現在は、診断のない学生も含めて16人が鈴木さんらの支援を受ける。「それぞれの学生の『困り感』をきちんと評価し、具体的にどのような支援が必要なのかを正確に判断することが重要だ」と鈴木さんは話す。
課題は、発達障害の自覚がないままトラブルを起こす学生への支援だ。教職員向けの研修などで発達障害への関わり方を指導するなどして、間接的に支援しているという。
最適な支援を見極めながら、学内の調整に走るコーディネーターの使命は、大きく重い。(保井隆之、写真も)
メモ 2007年度から本格的に始まった特別支援教育で、学内外の連絡調整役となる「特別支援教育コーディ ネーター」が位置づけられた。各校で校長が指名する。文部科学省の10年度の統計によると、指名率は幼稚園で56.4%、小学校99.3%、中学校 94.8%、高校79.1%。大学でも特別支援教育コーディネーターの名称で、専門職員を配置する動きが出始めている。