『朝日新聞』社説2012年4月23日付
大学改革―授業と入試を一体で
もっと、大学生に勉強させよう。文部科学相の諮問機関の中央教育審議会が、そんな議論をしている。
日本の大学生は1日平均で、4時間半しか勉強しないという調査がある。十数年前に比べれば、これでも増えたといわれるが、国の想定する大学生の勉強時間は8時間なので、まだ相当に短い。
こつこつと講義、授業に出ているが、予習や復習など自習の時間が少ないそうだ。
こうしてはどうか、と中教審はいう。前もって課題を与えて予習させ、議論や意見の発表をさせる。一方通行の授業を改めて、自ら学び、考える力をつけさせる――。
これなら学生の意欲も高まるだろう。ただ、実現していくには、入試のあり方も一体的に見直す必要がある。
いまの大学生の半分近くは、面接や小論文で選考する方式や推薦で入学している。
決して悪いことではないが、一般的な学力試験がないぶん、高校時代に勉強する習慣を身につけずに大学に入る人が増えたのは確かだ。
現に最近の約15年間に、いわゆる標準的な学力の高校生の勉強時間は、ほぼ半減しているというデータもある。これでは最低限の基礎学力すら身につかないだろう。
だからといって、いまさら詰め込み式、暗記型の勉強に戻せというのではない。大学での授業に対応できる程度の学力の有無を、知識の量よりも思考力を測ることで見極める。そんな入試制度に改善することが求められている。
たとえば、小中学校の全国学力調査や国際学力テストPISA(ピザ)では、グラフの読み解きや、討論を読んで主張の欠点を問うような問題が出される。
こうした設問に答えるには、細部にわたる知識の量よりも、考える力、論理を組み立てる構想力などが要る。
今回の大学改革がめざす授業も、これに沿うものといえる。当然、入試も同じような志向性が求められるはずだ。
かつて、大学生は「大学に入ったら勉強は終わり」と、よくいわれた。仕事に必要な知識は就職してから学ぶのが一般的だった。
しかし、経済のグローバル化や長引く不況で、多くの企業が創意工夫のできる自立した人材を求めるようになっている。そしてこれからは、他国の優れた若者と就職活動を競う機会も増える。
大学改革は待ったなしだ。