(4)対人関係の悩みも対応『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月19日付

『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月19日付

(4)対人関係の悩みも対応

 教員と向き合い、授業でつまずいた箇所を個別指導してもらう学生たち。中には対人関係の悩みを教員に打ち明ける者もいる。4月9日、日本工業大学 (埼玉県宮代町)の学修支援センター。「ここは学業に限らず、大学生活の悩みを解消する場」と、同センターの田中佳子准教授が説明してくれた。

 2005年に開設された同センターは、専属教員が常時待機し、高校レベルの数学、英語、物理、国語などを基礎から指導。夏休みなどには不得意分野 の克服講座も開いている。波多野純学長(65)は、「勉強についていけず、留年する学生が目立っていた。その対策として、大学内に“家庭教師センター”が 必要だと考えた」と振り返る。

 ところが、開設からしばらくたつと、発達障害が疑われる学生の存在が目立つようになった。工学系大学のため、卒業論文はチームで取り組むが、研究 室内で人間関係を築けないのだ。実際、臨床心理士がいる学生相談室には、発達障害の診断を受けた学生が、入学前に親と支援を求めてくるケースも増えてい た。

 一方、こうした学生を教える教員の中には、自分の指導方法に疑問を持ち、悩みを抱える者が現れてきた。大学を挙げて発達障害に取り組む必要に迫られ、センターでも対応することになった。

 発達障害が重かったり、不眠やうつなどの二次障害が出ている場合、学生相談室の臨床心理士が対応する。センターの田中隆治准教授(60)は「そうした子を学生相談室へとつなぎつつ、教務課や担当教員などと情報を共有するための『橋渡し』を果たすのもセンターの役割です」と強調する。

 数年前に卒業したアスペルガー症候群の男子学生は、授業中に立ち歩いたり、奇声を上げたりする行動などを理由に、高校を退学させられた。高卒認定試験を受けて入学してきたが、発達障害を理由にいじめられた体験がよみがえると、パニックになった。

 本人と親の許可を得て、研究室の学生に発達障害を公表した。パニックを起こした時は、同センターで気持ちを落ち着かせるなどの対応を取った。周囲の理解が得られ、学生の表情は日増しに明るくなっていった。今は、就職活動に励んでいる。

 「橋渡し」を介した全学的取り組みと自立まで寄り添う姿勢が、発達障害の学生を支えている。(保井隆之、写真も)

 二次障害 本来の発達障害が原因で環境との不適応を起こし、二次的に派生した問題。周囲の無理解や誤解、叱責 や失敗体験が重なることで自尊心が低下し、夜尿などの神経症的症状、抑うつなどの情緒的症状、非行などの問題行動、不登校などが表れる。不適切な環境に長 くいると、二次障害の方が大きくなることもある。

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