(3)告知して自立を後押し『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月14日付

『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月14日付

(3)告知して自立を後押し

 「ノートテイクをして下さる方を探しています」などと書かれたチラシが、掲示板にぎっしりと並ぶ。

 4月10日、日本福祉大学(愛知県美浜町)の障害学生支援センター。「障害学生自身にボランティアを見つけてもらう。自立した学生生活を送るためです」と同センター長の藤井克美教授(66)が説明してくれた。

 同大は10年以上前から、発達障害支援に取り組んできた。初代センター長の近藤直子副学長(61)は「当時はLD(学習障害)やADHD(注意欠陥・多動性障害)という用語は一般的でなく、MBD(微細脳機能障害)とひとくくりにされていた」と振り返る。

 学生約5400人のうち、障害学生が視覚、聴覚障害、肢体不自由なども含め100人を超える同大は、「セルフコーディネート」という考え方を掲げ る。大学は、社会に出て自立した生活を送るための力をつける場であり、支援を待つのではなく自分から要望する姿勢が必要になる。

 発達障害の学生のためには、2010年度から「個別学習支援計画」を導入した。自分の特徴などを記した自己カルテを基に、配慮してほしい項目など を記入したもので、本人が教員に伝える。「教員が作る、高校までの『個別の指導計画』とはそこが違う。自分に必要な支援も明確になる」と藤井教授は話す。

 発達障害を学生本人に伝えるかは、どの大学も頭を悩ますが、同大は告知する立場を取っている。「学生生活の先に就労という問題が待っている。就職活動では、自分を客観化して強みと弱みを分析することが不可欠で、診断はそのためのステップになる」と近藤副学長は強調する。

 数年前に卒業した後藤真輔さん(仮名)は、アルファベットを読むのに困難を抱えるLDだった。小学生の時に診断されたが、「孫を障害者にするのか」と祖父母が反対し、両親は告知せずにきた。同大は入学前に告知を勧めた。

 診断名を知った後藤さんは「自分に能力がないからだと思っていたけれども、そういうことだったんですね」と、ほっとした表情を浮かべたという。教員から講義を録音する許可を得て、パソコンで文字を分かち書きするなど、自分なりの工夫を重ねた。

 「正月には『元気に働いています』と年賀状が届いた」と顔をほころばせる近藤副学長。「発達障害というレッテルを貼るためではなく、適切なサポートのための告知だったと再確認した」と語る。(保井隆之、写真も)

 MBD(微細脳機能障害) 微細脳機能不全とも言われる。知能障害や明らかな脳障害がないにもかかわらず、認 知、言語、注意、協調運動などに障害を示す症状の総称。認知面の問題を取り上げたLD(学習障害)や、行動面を取り出したADHD(注意欠陥・多動性障 害)の概念が広がり、使われなくなってきている。

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