(2)名入り集合写真の力『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月13日付

『読売新聞』(教育ルネッサンス)2012年4月13日付

(2)名入り集合写真の力

 集合写真にペンでびっしりと書き込まれた学生の名前。「たった一枚の写真が、発達障害がある学生の支えになることもある」。宮城教育大学(仙台市)の学生相談室で、夛賀(たが)真理・相談員は感慨深げに振り返った。

 視覚、聴覚、知的障害、肢体不自由、病弱の5障害領域を網羅する特別支援教育教員養成課程を設置しているのが、同大の特色だ。「1年の必修科目 『特別支援教育概論』を開設し、学生が特別支援教育マインドを育むよう力を入れている」と、関口博久・学務担当副学長(59)は強調する。

 2009年に「しょうがい学生支援室」を設置。その下に発達障害部会を設け、細やかな支援を目指している。きっかけとなったのは、アスペルガー症候群と診断された一人の男子学生、真壁実さん(仮名)の入学だった。

 入学前、真壁さんは保護者と大学を訪れ支援を受けたいと申し出た。同大にとって、発達障害の診断がある学生を受け入れるのは初めてだった。

 真壁さんは予期せぬ事態が起きると対応できず、パニックを起こしやすかった。「自分なんか生きていない方がいい。罰せられた方がいい」と落ち込 み、自傷行為に走ってしまうこともあった。人の顔と名前を覚えるのも苦手で、学生生活を送る上でそのことにも不安を抱えていたという。

 5月の合宿研修を控え、同大は両親とも相談した結果、同じ専攻の学生に彼の障害を伝えた。臨床心理士が発達障害について一般的な説明をした後、真 壁さんは「人の名前を覚えるのが苦手で迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」と短い言葉でカミングアウトした。

 そんな彼のために、学生が進んで準備したのが名前を書き込んだ集合写真。「彼を受け入れ、支えるに足る学生たちだった」と夛賀さんは話す。

 「いつも緊張でこわばった顔をした真壁さんが、合宿で柔らかな表情を浮かべていた」と関口副学長。「発達障害は一人ひとりの困りごとが違い、単純にひとくくりにできない。でも、彼を4年間支えた経験が、その後の支援に役立っている」と話す。

 教職員のサポートに加え、仲間にも恵まれた真壁さんは卒業後、大学院に進学した。「4年間楽しかった。その思いがあるから、研究に打ち込める」と話している。

 仲間が自分を受け入れ、手を差しのべてくれた経験が、真壁さんの成長を大きく促した。(保井隆之、写真も)

 アスペルガー症候群 知的な遅れがない広汎性発達障害の一つ。特徴として社会性、コミュニケーション、想像力の欠如などがあり、対人関係をうまく築けなかったり、他者の気持ちを察することができなかったりする。アインシュタインやゴッホもアスペルガー症候群だったと言われている。

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