(1)ひきこもり 仲間と克服『読売新聞』 (教育ルネサンス) 2012年4月12日付

『読売新聞』 (教育ルネサンス) 2012年4月12日付

(1)ひきこもり 仲間と克服

 真新しいスーツを着た新入生でにぎわうキャンパス。保健管理センターの一角にある「アミーゴの部屋」では、学生らが陣取りゲームに興じていた。「こんなのありえない!」。男子学生が声をあげると、室内に笑いが満ちる。4月5日、和歌山大学(和歌山市)での光景だ。

 体験者が支援

 アミーゴは、スペイン語で「心を許せる仲間」の意味。同大の「アミーゴの部屋」は、ひきこもりを乗り越えて外出が可能になった学生の居場所のことだ。ゲームなどのレクリエーションだけでなく、対人スキルを磨く集団精神療法なども行われる。 

 30年前から不登校やひきこもりの学生の支援に力を入れてきた同大では2002年、それまでの蓄積を基に、「ひきこもり回復支援プログラム」を開 発した。その中心にあるのが自助グループ「アミーゴの会」の活動で、当時、問題となり始めていた発達障害による学生生活への不適応にも有効とされた。

 同じ悩みを乗り越えた先輩学生が、メンタルサポーター「アミーゴ」として、ひきこもる後輩を訪問し、修学や人間関係などの問題解決を支援する。 「キャンパス内の居場所で仲間を作り、安心感に支えられて成功体験を重ねることが学業復帰への近道となる」と、プログラムの開発者で3月まで同センター所 長だった精神科医の宮西照夫教授(当時)は説明する。

  元気の源に

 こうした支援により、学生の9割が半年以内に外出可能になるという。大学を休学中のある男子学生(24)は、「アミーゴは、いてくれるだけでほっとする存在。前に進もうとしている人たちなので、元気ももらえる」と話す。

 10年には、3人の「アミーゴ」を非常勤職員として採用した。その一人、瀧口穂高さん(26)は、発達障害の診断はないものの、物事をできるか、できないかで決めつけてしまう部分がある。卒業研究でつまずいたのがきっかけで、3年の後期から授業に出られなくなった。

 就職活動も重なって精神的に落ち込み、体調を崩した。休学と復学を繰り返して中退したが、同センターに通うようになり、アミーゴの会に参加。少し ずつ回復し、今では同じ悩みを抱える後輩たち約50人を支える立場に回っている。「悩みを抱えているのは自分だけではないと分かり、気持ちが楽になった」 と振り返る。

 とはいえ、メンタルサポーターであること自体が、社会に出る前の猶予期間。別所寛人・同センター所長は、「ゆくゆくはここを巣立ち、社会に出てほしい」と話す。そんな期待に応えようと、瀧口さんは今、児童福祉の仕事を目指して大学の通信課程で学んでいる。

 苦しみを克服する先輩の姿勢が、後輩の進むべき道を示している。

受験の門戸広がる

 発達障害がある学生が増えている。日本学生支援機構が全国の大学などを対象に実施した実態調査によると、2011年5月1日現在、発達障害の診断 書がある学生は、298校に1179人が在籍していた。診断書がなくても、発達障害と推察されて教育的配慮が行われている学生も、2035人おり、診断書 のある学生の約1.7倍に上った。

 大学入試センター試験では11年から、特別措置を申請できる障害種別に、発達障害が新たに加わった。申請が通れば、試験時間の1.3倍延長、拡大 文字問題冊子の配布、別室受験などが認められる。11年は95人、12年は135人が特別措置を申請し、発達障害がある受験生への門戸は広がっている。

 07年度から特別支援教育が本格的に始まった小・中学校と高校では、特別支援教育コーディネーターの配置や、個別の指導計画の作成などを通して、 一人ひとりの教育ニーズに応じた支援が進んでいる。「大学全入時代」の到来で入学生が多様化するなか、こうしたサポートを経て進学してくる学生をどのよう に支えていくか、大学の対応が急がれている。

 発達障害 知的発達の遅れを伴わない発達の遅れのこと。脳機能障害とされている。読み書きなどの習得が困難な 学習障害(LD)、衝動的に行動しがちな注意欠陥・多動性障害(ADHD)、対人関係が苦手な高機能自閉症などがある。2007年に学校教育法が改正さ れ、従来の特殊教育では含まれなかった発達障害の子も対象とする特別支援教育が本格的に始まった。(保井隆之、写真も)

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