秋入学 大学改革の入り口に 『信濃毎日新聞』社説2012年3月30日付

『信濃毎日新聞』社説2012年3月30日付

秋入学 大学改革の入り口に 

 入学時期を検討している東京大学の懇談会が、秋入学への全面移行を積極的に検討すべきだ、とする最終報告書をまとめた。

 懇談会が今年1月、同様の中間報告を公表してから、他の大学や経済界などで賛否両論が交わされてきた。

 東大は4月から、正式な委員会で本格的な議論を始める。他の大学と「教育改革推進懇話会」も設け、連携を図るとしている。

 入学の時期にとどまらず、大学教育を幅広い視点から考える場にしてもらいたい。

 欧米で一般的な秋入学に合わせることで、海外へ留学する学生や受け入れる留学生を増やし、国際化を推進する狙いがある。国際的な大学間競争が激しくなり、国内で少子化が進んでいることへの危機感が背景にある。

 慎重・反対の大学からは、就職活動が不利になることや、3月卒業が前提となっている公務員や医師といった資格試験への影響を心配する声が出ている。

 経済界では、秋入学を歓迎する声の方が強い。通年採用や秋採用を導入する企業も増えている。ある程度の大学の足並みがそろえば、人材を求める企業側が柔軟に対応するだろう。

 国も、入学時期の変更で資格試験の受験機会が損なわれないよう、積極的に協力すべきだ。

 より本質的な課題に目を向け、議論を進めてほしい。

 そもそも、日本の大学の教育課程に魅力があれば、留学生は自然と集まるに違いない。入学時期を欧米に合わせることで、研究や教育の内容がこれまで以上に厳しく問われることになる。

 東大の懇談会は「受験準備の受動的な学びから大学での主体的な学びへの転換」をうたっている。詰め込み教育で、受験までに疲弊してしまう現在の入試制度自体を見直す必要がある。

 春入学は廃止し、入学までの半年間をボランティア活動や国際交流に充てるという。学生が、社会活動や短期留学を「しなければならない」ととらえ、型にはまることは避けたい。

 大学で学びたいことや将来の職業を考えたり、知らない世界にふれたりする時間にしたい。そのためには、大学が幅広い分野の民間団体と協力し、相談態勢を整えることが求められる。

 入学時期の移行から始めることに異論はない。けれど、大学の改革が実を結ぶまでには長い時間がかかるはずだ。覚悟を決めて取り組まなければならない。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com