「秋入学を急ぐ前に」『紀伊民報』2012年2月20日付

『紀伊民報』2012年2月20日付

「秋入学を急ぐ前に」

 東京大学が学内に設けた懇談会が「秋入学への全面移行」を提言したのを機に、大学20+ 件の入学時期を春から秋に変更する話が盛り上がっている。

 ▼秋入学の利点とされているのは、海外からの留学生が増え、日本人も留学しやすくなる、高校卒業から大学入学までの半年間にボランティア活動など多様な経験ができる、新卒者の採用が多様化する、などである。

 ▼逆に、春入学と秋入学が並存すると、就職、入試、大学20+ 件間交流などで混乱が生じる、卒業までの期間が延びて保護者の経済的な負担が増える、などの問題点も指摘されている。京都大学のように、入学時期を変えるだけでは大学改革は進まないと、議論から距離を置いている大学20+ 件もある。

 ▼問題は、大学が教育の質をどう保障していくのか、という点である。学生は学資や生活費を稼ぐためのアルバイトに追われ、3年生になったら就職活動一直線。教員は「学問、研究の自由」を理由に、授業の質が問われることはほとんどない。留学どころか、中学生の英語から教え直さなければならない大学もある。

 ▼秋だ、春だと騒ぐ前にせめて4年間、しっかり勉強できる環境を整備することから始めたらどうか。企業の採用活動は4年生になってから解禁するとか、学生による教員の授業評価を義務付けるとか、すぐに着手すべき課題はいくつもある。

 ▼留学生の往来に便利だという程度の理由で、目の前の改革から目を背けてはならない。(石)

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