秋入学で国際競争へ活力 清水孝雄・東大副学長『日本経済新聞』2012年2月19日付

『日本経済新聞』2012年2月19日付

秋入学で国際競争へ活力 清水孝雄・東大副学長

 東京大学が表明した秋入学への移行。狙いを改めて聞いた。

 東大の懇談会として秋入学への全面移行を求める中間報告(まとめ)を発表した。少子化、グローバル化、国際競争が進む中で大学が活力を維持するには自ら変わらなければいけない。秋入学はその手段だ。

 東大の使命は「高度な専門知識と理解力・洞察力・実践力・想像力を持ち、国際性と開拓者精神を持った指導的人格」(東大憲章)、つまりグローバルリーダーの育成だ。学生は最新の学問を国際性豊かなキャンパスで学び、多様な体験を積む必要がある。

 それには世界の主流と異なる学事暦は不都合だ。教育や入試、企業採用の見直しも必須で、これを機に改革しようと社会に訴えたかった。

 教育の国際化も秋入学移行の目標である5年後をめどに実現したい。まず留学生寮の整備や英語での授業を数倍にし、学部の外国人留学生を現在の1.9%から2020年に5%以上にする。国の事業の一つで今年開講する秋入学プログラムには海外などから200人超の応募があった。海外留学も間違いなく増える。

 東大は様々な調査でアジアでは首位だが、中国やシンガポールの大学が急速に伸びている。このまま国際化を進めないとアジアの学生も中国などに行ってしまうだろう。

 中間まとめへの反響の大きさには驚いた。学内の意見募集では400件超のコメントが来た。「海外留学を後押しするため奨学金を増やすべきだ」など前向きな提案が目立った。学部の教授会でも議論中だが、丁寧に問題を詰めていけば、合意は得られると思う。

 他大学の関心も高い。4月に11校と設ける協議会に参加しない大学も、地域別に議論する方法がある。秋入学移行は、各大学が機能や使命に基づき判断すべきで、政府には環境整備を望む。

 産業界にはギャップターム中の体験活動や奨学金の支援、採用時期の柔軟化で協力してほしい。9月入学だと6~8月が休みになる。インターンシップや就職活動がこの時期なら授業に影響しない。企業もしっかり学んだ学生を採用でき、双方に利点が大きい。

 一方で、秋入学やギャップタームの問題点を指摘する声も無視できない。この仕組みは議論を通して練られる。熱狂で進むものではなく、多様な意見を歓迎する。ただ政府内で過去に何度も議論されながら普及せず、今回も実現しなければ、今後は議論のチャンスもなくなるとの危機感を持っている。

 しみず・たかお 1947年東京都生まれ。73年東大医学部卒。91年同医学部教授、2007年同大学院医学系研究科長・医学部長。11年から現職兼同大「入学時期の在り方に関する懇談会」座長。専門は細胞情報学。

 09年に生理活性脂質と膜脂質代謝に関する研究で日本学士院賞。

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