強い総長の強い意思、大学を動かす 東大秋入学の行方(1)『朝日新聞』大学取れたて便2012年1月24日付

『朝日新聞』大学取れたて便2012年1月24日付

強い総長の強い意思、大学を動かす 東大秋入学の行方(1) 

 東大が、早ければ今後5年前後で秋入学に全面移行するというワーキンググループ(WG)素案を正式に発表したのは1月20日だった。今年4月には他の11大学(北海道、東北、筑波、一橋、東京工業、名古屋、京都、大阪、九州、早稲田、慶応)や経済団体との協議の場を設けて意見調整を進める。すでに日程調整など事前の事務的な話し合いは水面下で始められている。これからどうなっていくのだろうか。

 浜田純一・東大総長は20日の記者会見で、秋入学で「日本人の学生を海外に送り出すことに大きな意味を見いだしたい」と話し、「学生の送り出し」に力点を置いた。秋入学は手段で、それによる国際化が目的だとすれば、ことは大学内の国際化や教育態勢の充実にとどまらない。大学経営の意思決定方法、学生の就職・雇用・採用慣行の見直し、さらには日本の文化や社会のあり方にまで影響が及ぶ可能性がある。

 これまでのいきさつや今回発表されたWG素案の内容をまとめ、他大学や文部科学省、経済界などの動きも含めて随時報告していきたい。

■国際化実現への道

 浜田総長は就任当初から国際化にかなりの意欲をみせていた。就任前月の2009年3月に取材した際には、秋入学ではなく「学生全員が海外に留学してもらうことを考えてみたい」と話していた。その後、学生送り出しに向けた動きは、経済的な理由や東大と同等の海外大学と協定を結び交流することの困難さから、直線的には加速しなかった。替わって秋入学への移行という発想が浮上してきた。

 昨年3月に刊行された浜田総長の著書「東京大学 知の森が動く」(東京大学出版会)では、学内広報誌に掲載されたこんなインタビューが収録されている。「思い切って、大学だけ9月入学にして、3月に高校を卒業したら大学入学までの半年間、何か特別なことをやるという仕組みを考えて良いかもしれません。すぐには変えられなくても、しっかり議論をはじめたいと考えています」。この本の末尾にも「将来、東大が秋入学になっている初夢を見た」というコラムが収められている。

 昨年4月にはWGを発足させ、入学時期についての意見交換を始めている。その後、外部の民間委員らが入る経営協議会の懇談会でも取り上げられ、総長が自信をもったのが6月15日の経営協議会だった。直後の7月1日に日本経済新聞が報じて、ホットな話題になった。

■法人化後の総長の力

 話は少しさかのぼる。国立大学は2004年4月、一斉に法人化された。それまでの文部科学省の内部組織という位置づけから、独自の法人格を得て独立した。中期目標や中期計画を文科省に出して認可を受けなければならないが、各大学の総長・学長の権限は強大だ。教学のトップ組織の教育研究評議会、外部者を入れた経営協議会、さらに学内の理事らで構成される役員会を束ねる。総長が理事らの選任権限ももつので、総長の意思が教学や経営に以前より破格の影響を与える仕組みになっている。法的には、総長の意思が全学に通りやすい組織になった。このため、東大で総長が秋入学を固めた以上、総長の残り任期中は執行部の方針が変わることは考えにくい。

 WGは月1回のペースで秋入学の話し合いを進めていった。すでに総長の意思は揺るぎないので、素案は秋入学の導入を前提とすればどんな課題があるのか、詰めるべきところはどんな点なのかという論調になる。

■他大学にも根回し

 WGの素案がおおむね固まったのは11月下旬。WGは12月10日ごろから素案を学内の研究科・学部長らに配り、WG座長の清水孝雄・理事(副学長)が2回にわたって学内の説明会を開いた。同時に総長らが個別に他の旧帝大代表らとも意見を交換した。浜田総長によると、秋入学を始める際に生まれる合格から入学までの時期的なギャップをどうすればいいかなどが話し合われた。慶応大学とは学生ボランティアの方法などについての意見も交わしたという。1月中旬には改めて素案を旧帝大各校に示し、記者会見の2日前にあたる1月18日には浜田総長自身が一橋大学の山内進学長と会って協力を要請した。

 WGの発足から記者会見まで、浜田総長の熱意が秋入学移行計画を導いてきたことは間違いない。背景には法人化による総長権限の強さがあった。それでは、内容はどんなものか。問題点はないのだろうか。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com