大学秋入学 社会全体で考える問題だ『西日本新聞』社説2012年1月29日付

『西日本新聞』社説2012年1月29日付

大学秋入学 社会全体で考える問題だ

 東京大が先に表明した秋入学への移行方針は、全国の大学を巻き込みながら、にわかに現実味を帯びてきた。

 東大は入学時期を検討する懇談会で、5年後をめどに秋入学に全面移行を目指すことを決め、九州大を含む国立大9校に早稲田大、慶応大を加えた11校と協議会を設置して検討を始めるという。

 国内トップを自任する大学の挑戦であり、果敢な問題提起と評価したい。

 明治期から大学20+ 件の入学は秋だったが、大正期に小学校などと合わせて春になり桜の下での入学式はこの国の伝統行事となっている。秋入学は臨時教育審議会が1980年代に論議して以来、再三検討された。だが企業の一括採用、春入社という慣行があり前に進まなかった。

 いま、東大が秋入学を打ち出した背景には大きな危機感がある。

 まず留学問題だ。世界の大学の6割は秋入学である。春入学では留学生の受け入れ、送り出しともに不都合が大きい。

 学部学生約1万4千人中、この10年間で海外留学したのは毎年30―60人という現状を、浜田純一学長は「10年後、20年後、社会はますますグローバル化しているはずだが、若い人たちがやっていけるのか、何より気になる」と心配する。

 多くの留学生を受け入れ、送り出すことで、語学力や交渉力の充実など国際化に対応できる人材を育てたいという。

 さらに問題は、学生の価値観の画一化だ。偏差値重視のいわゆる受験エリートが集まる傾向は東大だけではあるまい。

 東大の案では、春の入試後、合格者は秋の入学まで約半年の時間差がある。浜田学長は「ギャップターム」と呼ぶこの期間を通じて「ボランティア活動などで多様な価値観を育んでほしい」と、実社会で学ぶことに期待を寄せる。

 共同通信のアンケートでは、東大以外の国立大81校のうち4割以上の35校が秋入学を検討する意向を示した。九大の有川節夫学長も会見で「メリットの方が大きいのではないか」と述べ、学内に検討組織を設ける考えを表明している。

 しかし、入学時期を秋にするだけで単純に大学が国際化し、留学が進むものではない。卒業も原則、秋になることが想定される。多彩な人材活用を阻む春の一括採用の矛盾が指摘されるなか、経済界はおおむね歓迎の意向だが、本当に企業側の採用活動が変わるのか。春卒業を前提としている医師や公務員などの国家試験の時期とのズレも問題になろう。

 多様で国際的な人材育成には入試制度の改革も不可欠であり、ギャップタームの分だけ親の経済的負担も増える。

 事は根が深く一筋縄ではいかない。実施には多くの難題が絡んでいることを百も承知で、東大は秋入学を目指すという。一方で「東大単独での導入は考えていない」(浜田学長)と述べる。

 政府も後押しする方針だ。社会全体の問題として受け止め、官民挙げて考え、議論しなければならない課題である。

 

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