『読売新聞』社説2012年1月21日付
東大秋入学案 社会的な環境整備の議論を
東京大学が、学部の春入学を廃止し、海外で主流となっている秋入学へ全面移行する構想を公表した。
浜田純一学長は記者会見で、「5年後の移行を目指す」と述べた上で、「他の大学や企業との協議体を作り、条件整備の検討を始めたい」と実現に向けた意欲を語った。
産官学が連携して秋入学の問題点を洗い出し、議論を深めていくことが大切である。
学内懇談会のまとめた構想によると、入学時期を国際標準と一致させることで、日本人学生の海外留学と外国人留学生の受け入れを促進する狙いがある。
入学までに生じる半年間の「ギャップターム」には、ボランティアや海外ホームステイなど多様な経験を積んでもらうという。
東大を秋入学の検討に駆り立てたのは、国際的な大学間競争で後れをとるわけにはいかないという強い危機感だ。
欧米を中心に主要大学は、高い研究水準を維持するために、優秀な研究者や学生の獲得にしのぎを削っている。
ところが、東大の留学生の受け入れ比率は学部段階で1・9%にすぎず、ライバル大学に大きく立ち遅れている。外国人教員の割合も6・8%にとどまっている。
経済のグローバル化が進む中、語学力や交渉力を身に着け、国際舞台で活躍できる人材の育成は、産業界からの要請でもあった。
読売新聞が全国の国立大学を対象に調査したところ、30を超える大学が、秋入学の検討を開始するとしている。今後、こうした動きが広がる可能性もある。
だが、実現までには解決すべき課題も多い。
ギャップタームを有意義なものにするには、ボランティアの受け皿作りなど社会的な環境整備が欠かせない。
大学入学後の勉学にも生かせる具体的な活動メニューを、大学側が試験合格者に提示していく必要もあるだろう。
ギャップターム中、合格者が事故に遭った際の対応や学割の適用といった問題もある。立場が不安定なままで不利益を被ることがないよう、配慮してもらいたい。
また、国家試験の日程、企業の春季一括採用が変わらなければ、夏の卒業から翌春の就職までの期間にも空白が生じ、学生側の経済負担が増してしまう。
産業界にも通年採用の導入を進めるなど、大卒採用時期の柔軟化が求められる。