『日本経済新聞』社説2012年1月21日付
社会全体で考えたい秋入学
東京大学が入学時期を秋に移す案を打ち出した。過去にもたびたび検討されながら実現しなかった秋入学に、トップ大学が自ら踏み出す意味は大きい。
企業や官庁の採用、高校以下の学校にも影響を与える改革だ。グローバル化に対応した野心的な計画として具体化を注目していきたい。同時に、社会全体での議論につなげていく必要がある。
大学の入学時期はもともとは秋だったが、大正期に、小学校などに合わせて春に統一された。海外では新学期は秋が主流で、春入学では留学生の受け入れ・送り出しなどの面で不都合が多い。
臨時教育審議会が秋への移行を提言したこともあったが、掛け声倒れに終わった。一部に秋入学の枠を設ける大学も出てきたものの、広がりを欠いたままだ。
東大の構想の背景には、こうした現状への危機感がある。入試は春に実施するが、学部の新学期を秋に移行し、入学までの間は「ギャップターム」として海外体験やボランティア活動にあててもらう。5年後の実現をめざすという。
すでに他の国立大などで追随の動きが出ており、今後はどれだけ多くの大学が足並みをそろえられるかが焦点だ。
入学予定者の半年間の「受け皿」整備や、卒業も秋になる場合の企業・官庁の対応がカギになろう。新卒一括採用はかねて弊害が指摘されている。今回の大学側の動きを、既卒者も含めた通年採用拡大の契機にしてもらいたい。
大学側は、秋入学と併せて抜本的な入試改革にも取り組むべきである。東大はギャップタームについて「受験競争で染みついた偏差値重視の価値観をリセット」してもらう期間としているが、そうした価値観を植えつける入試体系そのものの打破を期待したい。
入学時期の問題は本来、大学だけのテーマではない。学校暦をすべて秋スタートに変えたほうが合理的だという声もある。これを機に、長期的な視点に立って大転換を探る意義があろう。