『朝日新聞』社説2012年1月21日付
東大の秋入学―学生のための国際化を
東京大学が秋入学に全面的に移る方針を打ち出した。
早ければ5年後から、学部の入学は9月か10月になる。
大半の国にあわせて秋入学にすれば、東大生の留学も、海外から東大への留学生も増える。それが大きな狙いだ。
有名大学が、自らリスクをとって挑戦する。その意気込みは評価したい。
日本の大学生の留学は近年、減る傾向にある。ことに渡米する学生は10年でほぼ半減した。
とかく学生の内向き志向がいわれるが、東大が卒業時にとった学部生のアンケートでは、3人に1人は留学を希望していたと答えた。しかし、実際に留学を経験した学生は1割未満だ。
就職活動への影響や留年への心配が大きかった。これを解消して留学を増やし、国際感覚を育みたいというのだ。
一方、海外からの留学生も学部生の2%にとどまる。5~10%である米中韓などの主要大学に後れをとっている。外国人教員や研究者も少ない。
世界の大学ランキングで、東大を含む国内大学の格付けは高くない。世界に選ばれる大学になりたいという狙いもある。
入学前にできる半年の空白期間にボランティアや語学留学を経験すれば、受験競争で染みついた点数至上主義の解毒もできる、と訴えている。
とはいえ、企業は春採用が今も主流だ。秋採用や通年採用が広がらなければ、就活に不利だからと受験生に敬遠されかねない。過去に秋入学を試みたが長続きしなかった大学もある。
東大も、春入学と秋入学に複線化する案を検討した。しかし基礎から積み上げる学部の授業体系にあわず、教員の負担も大きいと判断した。
東大は他の11大学や経済団体との協議を4月に始める。多くの大学にも及べば、企業の採用慣行も変わるかもしれない。
浜田純一総長は「東大単独ではやらない。秋採用や通年採用が広がるめどが立たなければ、秋入学はやらないくらいのつもりで協議する」と語った。学生の最大の不安は就活だ。しっかり実行してほしい。
気がかりは保護者の負担だ。卒業までの期間が半年か1年長くなれば、それだけ教育費が重くなる。今でも、東大生の家庭の半分は世帯年収950万円以上だ。お金がない家庭の子に、ますます行きにくい大学になれば本意ではないだろう。
国内外の多様な環境で育った若者が学びやすい大学にして、互いの視野を広げられる制度を考えたい。