『産経新聞』主張2012年1月21日付
東大の「秋入学」 果敢な提案を評価したい
色づき始めるイチョウ並木の下で、入学式の行われる日が来るのかもしれない。
東京大学の懇談会がまとめた中間報告は4月の一斉入学を廃止し、秋入学に全面移行するとした。大学の競争力を強化し、学生に多様な経験を積ませるための挑戦だ。戦後の新制大学発足以来、例のない果敢な問題提起を基本的に評価したい。
というのも、大学の秋入学は世界の国々の約6割が採用しているからだ。有力大学が優秀な学生や教員の獲得を競っている中で、春入学が一般的な日本の大学は不利を強いられてきた。
秋入学は中曽根康弘内閣時代の臨時教育審議会(臨教審)以来、再三検討されてきたが、学校制度や企業採用の慣習もあり進まなかった。しかし経団連は昨年6月、優秀な人材の確保や国際化への対応からも、秋入学などへの改革を求める提言をまとめていた。
入試自体は現行通り春に行う。秋入学までの半年間、受験競争で染みついた価値観を払拭してもらい、目的意識を明確にして大学生活に臨む。就学期間中も留学や体験活動などを取り入れ、卒業までに4年半~5年かける。
東大では今後、学内での合意形成や産業界などへの説明、告知期間を経て、早ければ5年後の導入を目指すという。
思い切った提言だが、実現までに解決しなければならない課題も少なくない。
まず産業界には、学生の採用のあり方など抜本的な見直しが迫られる。学校や官公庁、企業の活動はどこも年度を単位に行われてきた。さっそく他大学から足並みをそろえる動きも出てきたが、採用形態の多様化やインターンシップへの協力拡大などは早急に実現しなければならない。
国民のコンセンサスづくりも欠かせない。在学期間がこれまでより長くなれば、親の立場からは経済的負担が一段と増す。また、「入学や卒業はサクラの咲くころ」といった長く続いてきた文化観が、違和感なく受け入れられるかといった問題もある。
秋入学が実現しても、高校卒業から入学までを漫然と過ごしてしまわないだろうか。有意義な半年間にするためボランティア活動を義務づけるなど、工夫が必要だ。東大の問題提起を機に、社会全体で議論を深めたい。