大学の秋入学 東大案に理解広がるか『北海道新聞』社説2012年1月21日付

『北海道新聞』社説2012年1月21日付

大学の秋入学 東大案に理解広がるか

 東大が、学生の入学時期を秋に変更する動きを加速させている。

 見直しを検討してきた学内の懇談会が「試験は春、入学は秋」とする中間報告をまとめた。最終決定を急ぎ、5年後の実施を目指すようだ。

 狙いは、欧米と同じ秋入学を導入し、国際化を推進することだ。海外への留学や外国人留学生の受け入れが、世界の主要大学に比べ極端に少ないという危機感が背景にある。

 確かに、春入学は日本やインドなど数カ国にすぎない。学期のずれは、留学に支障があるだろう。とはいえ、大正期に定まった90年来の慣行を変えるのは容易ではあるまい。

 4月を基本にする学生の就職、企業や公務員の人事政策、医師などの国家試験ともミスマッチが生じる。影響は大きく、関係各界に理解を求める努力が必要だ。

 東大は、高校や経済界からも意見を募るという。他大学にも同調を求めており、北大を含む数校が検討する意向を示している。

 だが、教育界にはさまざまな見解がある。反対論は東大内部にも根強いほか、春入学と秋入学の併存が現実的、あるいは秋入学は夏入試とセットにすべき―など多様だ。

 仮に、東大単独、もしくは一部の大学だけの見切り実施となれば、混乱は小さくないのではないか。

 中間報告によると、秋入学を実施すれば、卒業時期が現在より半年から1年延びる。学生たちの経済的負担が増すのは間違いない。

 合格者が、秋入学までの半年間をいかに過ごすかも課題だ。

 中間報告は、ボランティアや海外体験などを想定している。学業以外の挑戦を通して「タフな東大生の育成」を強調する浜田純一学長の意向に沿うもののようだ。

 東大合格者は毎年3千人に上る。半年の空白を有意義にするのは簡単ではなかろう。学生がタフになるとは限らない。受け皿となる支援プログラムが必要との指摘もある。

 秋入学は、過去にも検討された問題だ。古くは1987年、中曽根康弘内閣の臨時教育審議会が初めて提唱した。2007年には安倍晋三首相の意を受けた政府の教育再生会議が「大幅促進」の方針を示した。

 いずれも立ち消えとなったのは、社会慣行と折り合いが付かなかったからではないか。

 春秋併存を採用はしたものの、秋については帰国子女や留学生を除いて取りやめた大学もある。就職などへの支障が大きく、結局、志願者が減ったためだ。

 東大が、大学のあり方に一石を投じた意義は大きいが、結論を性急に求めるべきではない。

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