東大が秋入学検討 解決すべき課題は多い『中国新聞』社説2012年1月21日付

『中国新聞』社説2012年1月21日付

東大が秋入学検討 解決すべき課題は多い

 入学といえば春。そんな社会通念を打ち破る大学の秋入学が果たして定着するのだろうか。

 入学時期のあり方を検討している東大の懇談会が、全学部で秋入学への移行を積極的に検討すべきだとの中間報告をまとめた。留学生を増やすなどして国際競争に打ち勝つのが狙いという。

 欧米では夏休み明けの入学が主流だ。グローバル化を進める経済界の一部からは、「国際基準」ともいえる秋入学への移行検討を評価する声が出ている。旧帝大なども学内で検討を始めるようだ。

 東大の動きは一石を投じたと言えるが、入学前と卒業後の各半年をどうするかなど課題は多い。保護者の負担も増えそうだ。

 安倍晋三首相時代の教育再生会議が9月入学の促進を4年前に打ち出したものの、広がらなかった経緯もある。教育関係者にとどまらない幅広い議論が要ろう。

 日本でも1920年ごろまで大学は秋入学だったが、会計年度に合わせて4月入学に変えた。この方が国内では合理的だし、すっかり定着した。ところが、海外との入学時期のずれは、留学する際の「障壁」になっているという。

 学部生に占める留学生の比率は、米国ハーバード大10%、韓国ソウル大6%に対し東大は1・9%しかない。東大からの海外留学も学部生の0・4%にとどまる。

 世界の有名大学に負けない最高水準の教育を追求するには、海外の優秀な学生を集める必要があると東大の懇談会は強調する。キャンパスのグローバル化である。

 国際展開する大企業などは外国人や留学生の採用を進めており、秋入学を歓迎する。秋採用を既に実施している会社も少なくないが、産業界が足並みをそろえるのは容易ではなかろう。

 教育再生会議でも指摘されたが、最大の懸念は入学前と卒業後に空白期間が生じることだ。東大の懇談会はボランティアや留学、就業体験などを想定するものの、保護者の家計負担は増えよう。

 大学進学率50%の時代になったが、経済的に豊かな家庭に育たないと難関大学に入りにくくなっているとも言われる。そんな傾向を助長する恐れがありはしないか。

 少子化が進み、定員割れのケースも珍しくない。全ての大学がグローバルな人材養成を目指して秋入学に移行するとは思えない。

 仮に東大や旧帝大、有名私大が秋入学となれば、大学の二極化が進む可能性もある。

 中国地方では、特定学部へ導入する取り組みが出始める一方で、一部大学の動きとの冷静な受け止めもあるようだ。

 東大などでこれから本格的な議論が始まる。空白期間の具体的な受け皿づくりや保護者の負担軽減などについて、高校側など学外の意見にも耳を傾けるべきだ。

 留学生を増やすにしても、入学時期を変える以外にやりようはないのか。カリキュラムや宿舎も含めた受け入れ環境を整えるなど多角的な検討も欠かせまい。

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