改革は柔軟に大胆に 東大秋入学 『信濃毎日新聞』社説2012年1月20日付

『信濃毎日新聞』社説2012年1月20日付

改革は柔軟に大胆に 東大秋入学 

 「学部の春入学を廃止し、秋入学に全面移行すべきだ」。入学時期のあり方を検討している東京大学の懇談会が、こんな中間報告をまとめた。

 欧米で一般的な秋入学に合わせることで、海外へ留学する学生や受け入れる外国人留学生を増やし、国際化を推進する狙いがある。春から入学までの半年間は、ボランティア活動や国際交流といった時間に充てるという。

 検討課題は多いものの、学生が視野を広げ、経験の幅を広げられるような改革には賛成だ。他の大学も続き、多くの学生が在学期間を有意義に過ごせる環境を整えてもらいたい。

 就職活動や資格試験への影響を懸念する声がある。経済界や関係機関には、東大の発案を後押しする柔軟な対応を求めたい。

 文部科学省によると、海外に留学する日本人は2004年の8万3千人をピークに減り続け、米国の大学では10年前の半数以下になった。一方、東大の学部生に占める留学生の割合は1・9%。ハーバード大10%、ソウル大6%、北京大5%に比べて低い。

 国内は少子化が進み、国際的な大学間競争はかなり激しくなっている。秋入学の提案は、東大の危機感の表れと言える。

 ただ、春入学の廃止は疑問だ。米国では春も秋も入学できる大学が大半で、取得した単位数によって2~3年でも卒業できる。国際化を進めるなら、春入学の道も残してはどうか。早期卒業を認めれば、学生も留学や社会活動の計画を練りやすくなるだろう。

 学生が最も心配しているのは就職活動が不利になることだ。いまは通年採用や秋採用を取り入れる企業が増えている。今回の中間報告についても、経済界からは評価する声の方が強い。官公庁も含め、新卒者を春に採用する慣行こそ見直すべきだ。

 もう一つ気がかりなのは、学生の経済的な負担である。留学や社会活動を促すなら、無利子や返済義務のない奨学金制度を充実させる必要がある。米国のように、卒業生から小口の寄付を募り、一つの奨学金にまとめるような方法も考えてはどうか。

 国内には既に、春以外の入学を認めている大学が245(09年時点)ある。が、実際に入学する人は少なく、定着していない。東大の提案を機にもう一度、大学内外で議論を深めたい。

 入学時期に限らず、国際社会で活躍できる人材がより多く育つよう思い切って改革してほしい。

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