大学秋入学 多様な人材育成につなげたい『愛媛新聞』社説2012年1月22日付

『愛媛新聞』社説2012年1月22日付

大学秋入学 多様な人材育成につなげたい

 東大の入学時期の在り方を検討している懇談会が、学部の春入学を廃止し、秋入学への全面移行を検討すべきだとする中間報告をまとめた。他の国立・私立大を加えた12校で協議会を設け、足並みをそろえて5年前後での実現を目指すという。

 世界の大学の6割以上が入学時期を9月か10月、欧米では8割が9月に設定しているという。主だった大学で、東大は学部留学生の割合も低い。グローバル化が進む中、国際競争力を高めねばならないとの危機感がうかがえる。

 学生の留学や海外からの留学生受け入れを活発にする。「国際標準」の秋入学への移行は、大学の国際化を進める一つの方向ではあろう。

 ただ、国際化には何より教育・研究面での大学の質が問われるはずだ。東大の構想には、高校卒業から大学入学までの空白期間を使い学生に社会体験を積ませる狙いもある。秋入学を表面的な国際化にとどまらず、多様な人材の確保・育成の手段としたい。

 だが、実現させるには解決すべき問題があまりに多い。学生の不安を拭うためにも、社会と連携した改革を進めることが鍵となろう。

 秋入学は1980年代の臨時教育審議会以来、検討課題とされ続けてきた。2007年には学校教育法施行規則の改正で春入学の原則を撤廃し、入学時期を学長判断で決められるようにもなった。

 しかし、文部科学省の09年度調査によると、学部で4月以外の入学制度を持つ245大学のうち、実際に学生を募集しているのは115大学、入学者は2200人余りと少ないのが実情だ。一度導入しながらやめた大学もある。

 壁となるのが、4月に新スタートを切る日本社会に根付いた慣習、とりわけ就職への影響だ。既に通年採用を実施している企業もあるが、新卒の4月一斉入社といった画一的な採用を官公庁も含め見直さねばならない。

 入学までの空白期間も課題だ。東大は、ボランティアやインターンシップ(就業体験)、国際交流といった体験活動を想定しているようだが、その内容や受け入れ先の十分な確保が求められよう。

 そもそもペーパーテストに偏った受験競争の後、すべての学生がこういった活動に主体的に携われるものか疑問がある。東大も指摘しているように、ここは大学入試の改革とセットで考えるべきだ。

 懸念されるのは、就学期間が4年半ないし5年に延びることで、学生の経済負担が増すと予想されることだ。

 奨学金制度の充実など支援措置が取られなければ、今以上に経済的な条件で入学者をふるいにかけることになりかねない。それでは改革の意義が根本から問われよう。

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