2012年度政府予算案の国立大学法人運営費交付金等に関する声明 2012年1月13日 全国大学高専教職員組合中央執行委員会

2012年度政府予算案の国立大学法人運営費交付金等に関する声明

 2011年12月24日、政府は2012年度政府予算案を閣議決定した。2011年3月11日の東日本大震災発生以降はじめて、かつ国家財政悪化がいわれる中での政府予算である。大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した国として、将来への道筋を描く上で非常に重要な予算であり、国立大学、大学共同利用機関、国立高専の役割が期待され、それにふさわしい予算措置がとられるべきものと訴えてきたところである。

 大学は社会の中にあって、国民が高等教育を受ける権利を保障し、知を創造し継承していくという独自の役割を付託されている。その役割を十全に発揮するためには学問の自由を保障し、大学に自治を与えることがふさわしいことは、歴史が証明するところである。そして、国立、公立、私立の設置形態の別なく、大学を公的な財政によって支えることもまた、政府の役割である。

 国立大学は2004年の国立大学法人化によって、それぞれが法人格をもつ国立大学法人が設置する形態へと移行し、大学にふさわしい自律性を獲得するものとされ、その役割がより発揮されるものとされた。

 しかるに法人化後8年間の予算でもそうであったが、それにも増して、2012年度政府予算案は、その決定経過と予算額とから明らかなように、大学での知的な営みの自律性を否定し、国による財政誘導によって教育と研究の方向を縛るものとなっている。

 全国大学高専教職員組合は、この政府予算案と、国立大学を含む高等教育政策の方向性について、ここに意見を表明し、国会審議、国民的な議論のもとでそれが是正されていくことを求める。

国立大学運営費交付金の基盤的経費から競争的経費へのシフトは止めるべきだ

 国立大学運営費交付金は、1兆1,423億円であり対前年度105億円減、0.9%減であったが、復興特会をのぞくと対前年度162億円減、1.4%減であり、非常に大きな減額であった。そのうち、大学における基盤的な教育と研究を支える一般運営費交付金は、9,320億円で対前年度51億円減、0.5%減であった。一般運営費交付金には、第1期中期目標期間中は毎年1%の効率化係数が、また第2期中期目標期間に入ってからは1.6%(附属病院運営費交付金を受けている大学)、1.3%(附属病院を持ち附属病院運営費交付金を受けていない大学)、1.0%(それ以外の大学)の3段階の大学改革促進係数がかけられ、削減が続けられている。2004年の国立大学法人化以降、運営費交付金は減り続け、2012年度政府予算案では2004年度と比べ992億円の減、うち一般運営費交付金(法人化当初は「教育研究経費」)は2,354億円の減少である。一般運営費交付金には授業料免除が含まれており、この2012年度政府予算案では対前年度42億円増であった。授業料免除枠の拡大によって、経済的理由によって高等教育を受ける権利が保障されない学生がひとりでも減ることは重要であり、その増額を歓迎する。しかし、この増額を一般運営費交付金から除外すると、その他の基盤的な経費の減額は93億円にも及ぶ。一般運営費交付金の減額は、結果として学生の教育にかける経費、基盤的な研究経費の減額と、そうした教育研究を支える人材の人件費の減額によって賄われることとなる。こうしたことへの対応として、各大学では専任教員の削減が行われてきており、教育・研究への影響があらわれ始めているのに加え、高等教育の将来を担うべき若手の教員やそれをめざす人々の希望を奪っている。大学の機能の低下につながり、国立大学が今後日本の社会へ還元できる知の質と量の維持も困難となる。

 附属病院運営費交付金は対前年度71億円減の63億円である。大学病院では「経営重視」による病院収益の増大が求められ、患者の受け入れ増大、ぎりぎりの人員による「7:1看護」の導入、慢性的な医師不足等の結果、診療時間の増加、教職員の労働過重などの状況となり、その使命遂行にとって重大な問題を抱えている。そして運営費交付金の減少を病院の収益増で補えない法人では、結果として一般運営費交付金から補填せざるを得ず、ここでも大学全体における基盤的経費の削減が起こっている。

 こうした基盤的経費の削減に対し、事業ごとに計上される競争的な特別運営費交付金は、対前年度117億円増、12.9%増(復興特会を除くとそれぞれ89億円増、9.8%増)である。ここでは、法人化以降一貫して続けられている基盤的な経費から競争的な経費へのシフトが明らかである。こうした運営費交付金の中での縛りの強化は直ちに止めるべきである。

国立大学改革強化推進事業の新設等の強引な財政誘導は止めるべきだ

 2011年度政府予算では、大学教育研究特別整備費(58億円)が創設された。2012年度政府予算ではこれが教育研究力強化基盤整備費(43億円)とされた上で、別途、国立大学改革強化推進事業138億円が新設された。この事業の目的は、「大学の枠を超えた連携の推進や個性・特色の明確化などを通じた取組を推進」するためであり、「大学改革に積極的に取り組む国立大学法人に対し」重点的に支援することとされている。連携の推進や個性・特色の明確化等はそれ自体が目的ではないはずである。教育と研究の質の向上について、各大学が自律的に検討し実施していく多様な取り組みを、基盤的な経費で保障することこそが、必要とされている。

給付制奨学金制度を創設すべきである

 全大教は、国民の学ぶ権利を保障し、経済的な理由で高等教育が受けられないということがあってはならないという立場から、給付制奨学金の制度の創設を求めてきた。文部科学省は2012年度予算にむけた概算要求にあたり、給付制奨学金の創設を盛り込んだ。このことは英断として評価をする。しかし、2012年度政府予算案策定の段階で、所得連動返済型の奨学金を新設はしたものの、給付制奨学金の創設を否定した。

 また、政府予算の中には、「大学等奨学金事業の健全性確保」として、債権回収業務の民間委託が含まれており、経済的理由による返済困難者の個別事情に配慮しない画一的な取り立てが加速される懸念が膨らむものである。

 奨学金制度については、その本来の趣旨に立ち戻り、多くの国民が学びたいときに学ぶことができる保障を与えるために必要な制度へと変えていかねばならない。給付制奨学金制度の創設をあらためて求めるものである。

今、社会に必要とされている高専に対しての予算減額を是正せよ

 国立高専予算(独立行政法人国立高等専門学校機構への運営費交付金)は、対前年9億円減の630億円(うち復興特会1億円)である。

 高専は、大学とは異なる役割から高等教育の一環を担い、実践的な教育のもと、多数の有為な技術者を養成している。その役割に応じた社会的評価は高く、それは卒業者にたいする求人率の高さからも示されている。産業の空洞化が言われ、また大震災からの復興をめざす中では、多数の有能な技術者が社会から必要とされており、従来にもまして、高専に期待されているものは大きい。

 しかるに、国立高専への予算額が減額であることは、遺憾であり、この是正を求める。

政府予算案決定の過程での拙速な政策決定では高等教育政策はおかしくなる

 2011年11月に実施された、行政刷新会議による「提言型政策仕分け」では、一方的に設定された偏った論点からのみ、国立大学を含む大学のあり方が論議された。そして、今回の政府予算案には、そこで整理しつくされたとは言い切れない「提言」を踏まえ、「国立大学改革強化推進事業」などが盛り込まれるとともに、予算折衝の過程での財務大臣・文部科学大臣・民主党政務調査会長の連名文書では予算措置以外に、「大学群の創設」、「一法人複数大学方式(アンブレラ方式)」、「国立大学運営費交付金の配分基準などについてのさらなる整理」といった、中央教育審議会、国立大学法人化やその制度の中での外部・第三者による評価などといった従来から積み上げてきた議論さえをも踏まえない事項が挙げられている。密室的に国立大学、高等教育のあり方の方向性が決められていく事態に、大きな危惧を覚える。大学・高等教育関係者はもとより、広く国民的な議論を求める。

 全大教は、教育・研究・医療を求める社会とともに、大学・高等教育のあり方について探求し、提言活動を進めていく。

              2012年1月13日 全国大学高専教職員組合中央執行委員会 

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com