大学秋入学、企業が評価 「国際化に追い風」『日本経済新聞』2012年1月19日付

『日本経済新聞』2012年1月19日付

大学秋入学、企業が評価 「国際化に追い風」

 東京大学(浜田純一学長)の懇談会は18日、秋入学への全面移行を求める中間報告(まとめ)を経営の重要事項を審議する経営協議会に提出した。実現に向けては学内の合意形成とともに他大学の協調がカギだが、九州大が同日、検討組織の発足を表明するなど呼応する動きも表面化した。波紋は産業界にも広がり、グローバル展開する大手企業などからは積極的に評価する声が聞かれた。

秋入学が実現すれば、就職活動のあり方も変化する(11年12月、都内で開かれた企業の合同説明会)

 通年採用や留学生の採用を積極化している企業や産業界からは中間報告を評価する声が聞かれた。商社でつくる日本貿易会(槍田松瑩会長)は「海外留学などを通じて学生が学業に一層専念できる環境づくりが大学側で検討されていることを歓迎する」とコメントした。

 経団連の米倉弘昌会長は18日、「歓迎する」と評価したうえで、企業側の対応として「実施されれば採用活動も変わらざるを得ない。(高校卒業から入学までの)6カ月の間に留学やボランティア活動をすれば、それを選考に反映させる必要もある」と述べた。

 銀行や保険会社は「ほかの大学も追随する可能性があり、まずは動向を見極めたい」との立場だ。メガバンクは「現在も秋に卒業する海外留学生などは通年採用枠で選考している。そうした制度を活用するかもしれない」。日本生命保険は卒業から入社までの半年間のギャップについて「インターンシップなどを通じて企業や職業理解を促す機会にできればいい」と前向きに受け止める。

■「労働人口減る」

 一方、全国地方銀行協会の中西勝則会長(静岡銀行頭取)は18日の記者会見で「卒業まで4年半、5年となると1年間労働人口が減る。そういうことが起きなければいいなと思う」と懸念を示した。

 電機、自動車など大手メーカーや流通大手はすでに海外大学卒業者を対象に秋採用を行っており、採用活動への影響について心配はないという。

 日本自動車工業会(自工会)幹部は「東大の国際競争力を高めるための動きとみている。自動車大手各社はこれまでも秋卒業の海外大学出身者を採用するなど、優秀な人材の獲得には積極的だ。一括採用の時期から外れても学生の就職に不利に働くことはないのではないか」との見方を示した。

 楽天は2010年10月から秋採用を行っており、東大が秋入学に全面移行しても採用活動への大きな影響はないとしている。ソニーも「通年で社員を柔軟に採用できる体制を整えている」という。

 イオンは11年から、国内外で通年での採用活動を始めた。日本人を含め国境を越えて仕事をするグローバル人材を3年で2500人採用する計画。ファーストリテイリングは毎年、1500人のうち1200人を海外で採用する方針で、国内の新卒以外の人はいつでも入社できる体制にしている。

■「競争力を強化」

 「海外の優秀な留学生を国内で幅広く募集でき、産業界の競争力強化にもつながる」(リコー)との指摘もある。キリンビールは「留学などの様々な活動にチャレンジする機会が増えることで、学生の国際化や多様化が進むきっかけになる」。花王の採用担当者は「日本の学生だけでなく、海外留学生を含めると卒業の時期は多様化している。卒業時期に合わせた採用選考にシフトするきっかけになりそうだ」と受け止めている。

 人材大手のリクルートは「留学生の受け入れや送り出しの機動性が高まることは、新卒採用をする企業の立場からは良いこと」と分析している。

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