産学連携で活躍の場を、専門外への視野重要に『日本経済新聞』2012年1月19日付

『日本経済新聞』2012年1月19日付

産学連携で活躍の場を、専門外への視野重要に

「若手博士育成シンポ」でパネル討論、日本を元気にする産業技術会議、 

 若手博士育成シンポで基調講演した川村隆・日立製作所会長は、米国や中国が国家戦略として人材を育成する例を挙げ、日本も博士号取得者など高度人材を継続的に育成する体制作りが必要と述べた。講演に続くパネル討論では、企業が博士人材に期待することなどを議論。産学官が連携を密にし、博士人材に対する意識改革と活躍の場を提供することが大切だという認識で一致した。

 パネル討論には、元矢崎総業採用担当部長の三谷哲也氏、トクヤマの柳裕之・つくば研究所所長、早稲田大学博士キャリアセンター長の朝日透教授、京都大学の小寺秀俊副理事、経済産業省大学連携推進課の進藤秀夫課長、産業技術総合研究所の景山晃イノベーションスクール副スクール長の6人が参加した。

 若手博士人材に求める人物像について、三谷氏は「自分の専門分野だけでなく、幅広い知識を身に付けていること」を挙げた。柳氏は「専門分野の知識に加えて自分の考えを相手に伝える能力、自分の考え方を柔軟に変えていける力が必要」と述べ、コミュニケーション能力の大切さを訴えた。

 朝日氏は早大で取り組む海外インターンシップ制度を紹介した。「外国で全く違う文化の人たちと一緒になれる環境が大切」だという。既に取り組みを通じて海外企業から、人材を受け入れたいとの申し入れが来るようになっているという。

 小寺氏は細分化した研究分野のみを扱ってきたこれまでの大学院教育を反省。その上で「専門以外にも美術に造詣があるなど、幅広さがないと魅力的な研究者にはなれない」と持論を展開した。

 景山氏は、企業と連携して若手研究者に実践的な研究開発教育をする「産総研イノベーションスクール」の取り組みを紹介した。

 「スクール生は来たときは視野が狭い。専門分野以外にもいろんなことに興味をもち、興味をもったことと専門分野を関連付けて考え、問題解決能力より課題の発見能力でアピールできる人材となるよう伝えている」(景山氏)と人材育成の極意を語った。

 若手博士人材を活用するにはどうすればいいかについて三谷氏は「企業職場内訓練(OJT)や連携大学院、インターンシップのほか、企業から大学への教師の派遣などを通じ、相互に情報交換をしていくことだ」と提案。柳氏は「社会人で博士号をとろうと大学院に行く人など、産学の人材交流がカギ」と述べた。

 大学側からは朝日氏が「インターンシップは1週間程度の見学ではなく、3カ月間ぐらい研究現場に入り、何か役割を演じさせるのが非常に効果的」と分析した。経産省の進藤氏は「長期インターンシップがどこまでできるかだ。採用につながる仕組みがあってもいい」と述べた。

 一方、小寺氏は「産学官が連携すれば何でもできるというのは誤解」と指摘。学部生から大学院生まで、なるだけ早い段階から(高度人材として働くための)動機づけの重要性にも触れた。

 人材育成には息の長い政策が必要だ。産総研のイノベーションスクールも一例といえる。ただ、「産総研で大人数をまかなうのは難しい。経団連のほか、国立大学協会や日本私立大学協会などと長期戦略に基づいて真剣にやっていけないか」(景山氏)と提案した。

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