『朝日新聞』2012年1月16日付
大分大、「世界の北野」が広告塔 学生確保へ学長動く
入学志望者の減少が続く大分大学が、巻き返しを狙って大学の魅力発信に力を入れている。大分県内の高校で説明会を企画、昨秋就任した北野正剛学長自らが出向いて学生獲得のためのPRに乗り出した。
大分大の受験者数は2011年が4909人。6171人いた06年と比べて5年間で受験生が2割減った。
先月15日、大分市の岩田学園高校で説明会が初めて開かれた。大会議室のプロジェクターが1990年のニュース映像を流し出すと、集まっていた1~3年生約230人がどよめいた。目の前にいる北野学長がニュースに登場したからだ。西日本で初めて内視鏡を使った胆のう摘出手術を報じていた。
北野学長は外科医。「世界の北野」とも呼ばれる内視鏡手術のパイオニアだ。昨秋、「週刊ダイヤモンド」で「ガン治療の名医50人」のひとりとして紹介された。
説明会は約1時間。北野学長が講演し、4学部の説明も行った。終了後、1年の楠元あいさんは「内視鏡手術の話が面白かった。九大医学部を目指しているが、分大(ぶんだい)にも興味をもった」と話した。
高校生対象の説明会に国立大の学長が登場するのは珍しい。北野学長は昨年10月の就任会見で「広報に力を入れる」と表明。説明会に学長とともに参加した山口正孝広報室長も「学長には広告塔になってもらいたい」と宣言していた。
広報室は昨年9月、学長の直轄部署として新設され、広告会社の勤務経験が長い山口さんが室長に起用された。山口さんはFMラジオの番組に学生を出演させたり、テレビCMを打ったりした。「各大学が危機感を持って取り組んでいる。大分大もブランド化のために今までできなかったことをどんどんやっていきたい」
学長による説明会は、まず身近な高校生を取り込むべく、地元高校で始めることにした。県内の高校から大分大に進学する人は44%。今後、県外にも出向く予定という。
■独立法人化で拍車
大学は今、少子化で志望者数が定員を下回る「全入時代」を迎え、どの大学も優秀な学生を獲得するため広報活動に力を入れている。大分大に限らず国立大は2004年に独立行政法人になって以来、文科省に頼らない経営努力をしなければならない点も、それに拍車がかかる理由だ。
熊本大学は09年度から「女子中高生理系選択支援事業」を始めた。天草に1泊2日で海洋生物の実習に連れて行ったり、講演会を開いたり。志望者が少ない理系女子を獲得するためだ。
長崎大学も10年、学長直轄の広報戦略本部を設け、外部から識者を雇った。市民向け公開講座を始め、地域貢献に力を入れている。(城真弓)