医学部新設か 定員増か、「医師不足」巡り対立続く『読売新聞』2011年12月19日付

『読売新聞』2011年12月19日付

医学部新設か 定員増か、「医師不足」巡り対立続く

 医師を養成する医学部の新設はここ30年以上認められていません。文部科学省の検討会は1年近く、新設の是非をめぐり、委員が意見をぶつけ合いましたが、結論は得られていません。医学部設置でなぜここまで、論争が起きるのでしょうか。

 ――今なぜ、医師を増やす医学部新設が検討されているのですか。

 「救急患者のたらい回しや自治体病院の休止など、2007年ごろから地方で医師不足による問題が相次いだことがきっかけです。解決策として、09年に政権交代を果たした民主党は、医学部定員を1・5倍に増員することを掲げ、医学部新設も検討課題にあげました。10年12月から、日本医師会、大学病院、自治体など関係者による検討会で論議が始まり、今に至っています」

 ――その結果、どう結論づけられそうなんですか。

 「新設を認めるべきという推進派と、否定的な慎重派の溝は深く、一本化できそうにはない状況です」

 ――慎重派の論拠はどこにあるのでしょうか。

 「医師不足は既存の医学部の定員増で十分対処できるというのが慎重派の考えです。09年度から大幅な定員増が始まっており、12年度には07年度に比べ1366人増の8991人(防衛医大除く)に達します。実に、医学部13校分に相当します」

 「日本医師会の試算では、この規模の定員数を当面続ければ、2025年時点で病院などの勤務医は10年に比べ5万8000人増の33万9000人となるそうです。逆に人口は減るため、1000人当たりの医師数は現在の先進国の水準に追いつきます。医学部をいったん作れば、医師が過剰になっても廃止は難しいというのも、新設に慎重な理由となっています」

 ――推進派の考えは。

 「必要とされる医師数は、定員増ではまかないきれないほど、当面増え続けると見ているからです。技術の進歩で治療をあきらめていた重症患者も助けられるようになり、その分、多くの医師が治療に携わるようになっています。その傾向はさらに進むと見ています」

 「将来的に全体的な人口が減少していくのは確かですが、治療の機会が多い高齢者は増え続けます。また勤務医の過重労働を軽減するため、より多くの医師が必要になるとしています」

 ――新設に名乗りを上げている大学・病院は。

 「医師が少ない東日本の大学・病院で準備する動きがあります。大学卒業者を医師に養成する4年制のメディカルスクール(医学大学院)は、費用も抑えられるため、検討している施設は多いのですが、今のところ、実現するかどうかは不透明です」

 「仙台市の東北福祉大・仙台厚生病院や栃木県大田原市の国際医療福祉大は、地域枠や奨学金制度を活用し、医師不足に悩む地域の要望にこたえる医学部新設の計画をまとめています」

 ――今後の見通しは。

 「文科省は1月15日まで、一般からの意見を募集しています。最終的には検討会の意見を参考に、政治家が決定します。新設の方向が出れば、文科省内の審議会であがってきた申請を個別に審議することになります。早くても2~3年先になりそうです」

 「定員増や医学部新設を進めたとしても、現場に医師が出て行くのに10年程度の時間が必要です。地域医療の疲弊に対しては、大都市圏と地方の医師の偏在解消や勤務医の負担軽減などに継続して取り組んでいく必要があるでしょう」(渡辺理雄)

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