『朝日新聞』社説2011年12月8日付
公務員給与―引き下げ法案を通せ
国家公務員の給与を平均7.8%引き下げる法案で、与野党が歩み寄れない。臨時国会での成立が危うくなっている。
角突き合わせるばかりの政治に、強い憤りを覚える。
政府は法案で、公務員の人件費を2割削るという民主党の公約を前進させるとともに、引き下げで生み出す約6千億円を震災復興にあてるはずだった。
このままでは、国民に復興増税を求めながら、官が身を削らず、復興財源に穴を開けることになる。さらに民間企業の動向にあわせた人事院勧告の0.23%引き下げも実現しない。
まさに、国会の無作為を象徴するような展開である。
政府の法案も、自民・公明の対案も、平均7.8%引き下げる数値は同じだ。
違いは、政府が人事院勧告を事実上棚上げして7.8%カットするのに対し、自公は勧告をいったん実施する点だ。
どちらも、勧告より大きく削る。退職金などに違いが出るとはいえ、越えられない溝だとはとうてい思えない。
対立が解けないのは、公務員の労働基本権に対する考え方の違いがあるからだ。
政府・民主党は、人事院勧告に沿って給与を決める現行方式をやめ、労使交渉で決めるようにしたい。そのため、基本権のうち労働協約締結権を回復する法案を国会に出している。人事院は廃止する。
これに対し、自民党には労組の立場が強まる基本権回復を嫌う声が強く、勧告の実施にこだわっているようである。
だが、歩み寄れるはずだ。なぜなら、基本権の問題は給与引き下げ法案ではなく、基本権回復法案で決めるからだ。まず引き下げたうえで、回復法案を来年の通常国会で審議すればいいではないか。
参院で多数を握り、法案の成否を事実上決められる野党が審議を拒む理由はないだろう。
政府も給与引き下げの先行をためらっている時ではない。支持母体の連合との間で、基本権回復を前提に、大幅引き下げで合意した経緯があるとはいえ、ぐずぐずしていると、復興にあてる財源が日一日と減る。
野田首相は、社会保障と税制の一体改革の素案を「年内をめど」につくる。そこで消費増税を掲げる段取りだ。
その前に官の身を削る給与引き下げ法案を成立させるか、実現のめどをつけなければ、消費増税への国民の抵抗感をいっそう強めてしまう。
与野党とも冷静になって、一刻も早く合意すべきだ。