健康管理、住民と密着 知を拓く 旭川医科大(3)『日本経済新聞』北海道版2011年12月8日付

『日本経済新聞』北海道版2011年12月8日付

健康管理、住民と密着 知を拓く 旭川医科大(3)

 旭川市中心部にある交流施設「HI・RO・BA」。旭川医大の公開講座を待ちわびる住民で会場は満席だった。「ストレスは認知症に影響しますか」「認知症を予防する食品はありますか」。参加者の相次ぐ質問に、林要喜知教授は「バランスの良い食事と適度の運動が認知症の予防につながりますよ」と素朴な疑問に答えた。

 高齢化の進展で、認知症患者は増加傾向にあり、住民の関心も高い。冒頭のような住民向け公開講座は、旭川医大が2008年に北海道教育大学など周辺教育機関と連携し組織した「旭川ウェルビーング・コンソーシアム」の活動の一環だ。

 同組織は旭川市内に「HI・RO・BA」を設置。住民との接点を広げつつある。コンソーシアムには旭川医大などの学生組織「はしっくす」も加わり、地域貢献に取り組む。

■地域活動に参加

 冬の旭川市は観光客が少なく、市街地の人通りもまばら。「はしっくす」は昨年末、旭川市街の元気を取り戻すため、キャンドルを雪で覆った「スノーキャンドル」を作って街の商店街に並べた。地元住民、観光客と協力して作ったスノーキャンドルは約300個。250メートルほどの通りを幻想的な街並みに変えた。

 医師は自らの専門分野に集中し、地域社会との結びつきも薄くなりがち。コンソーシアムの運営協議会議長を務める旭川医大の吉田貴彦教授は「学生が地域活動に参加することで、視野の広い人材の育成につながる」と期待する。

 旭川医大は地元の講演会などにも積極的に貢献。4日には肝臓病の患者団体が旭川市で初めて開いた「肝移植懇談会」に大竹孝明講師ら医師2人を派遣した。旭川医大の生体肝移植手術の成功事例にも触れながら、慢性肝疾患の治療法や肝移植について講演。集まった患者や家族ら約40人が耳を傾けた。

■予防意識高める

 旭川医大の地域貢献は、旭川市を超えて広がっている。市民が健康に暮らせる都市を目指す留萌市。2009年に開設した健康作りを支援する「るもい健康の駅」では、住民が運動できるスタジオのほか、体重計や血圧計を置き、健康チェックできる環境を提供する。

 留萌市は昨年10月に住民が自分で健康管理できるシステムを同施設に導入した。健康情報を電子情報で管理する「ウェルネットリンク」という仕組みで、会員登録すれば、健康情報を手軽に管理できる。旭川医大が開発したシステムで「住民が自分の健康医療情報を管理し、健康維持に役立ててもらう狙い」(旭川医大学長政策推進室の林弘樹主任)だ。

 住民は同施設などから無料でカードを入手。パソコンから「ウェルネットリンク」サイトにアクセスし、名前や住所など会員情報を登録する。アレルギーの有無や健康診断結果などを入力しておけば、自分の健康情報をパソコンで閲覧可能。病院で活用が広がれば、健康状態について医師の理解を深められ、診察などに役立つ。

 留萌市健康福祉部の海野聡主査は「住民がそろって病気の予防に取り組むことは、医療費抑制にもつながり好ましいこと」と話す。

 住民や自治体の旭川医大への期待は大きい。医療資源を有効活用して、道北東地域をいかに引っ張っていくか。旭川医大には強いリーダーシップが求められる。

「産官と連携、医療の街に」

 旭川医大の経営協議会委員を務める旭川信用金庫の松田忠男理事特別顧問に、同大への期待を聞いた。

 ――旭川医大に何を求めるか。

 「吉田晃敏学長が2007年に就任して以降、旭川医大は変わった。新しいことに対する挑戦意識が強くなった。医師の多い旭川では、医療が地域発展の柱になる。旭川市や経済界と連携しながら、医療を生かした街づくりを目指すべきだ」

 ――遠隔医療など日本の医療をリードする分野もある。

 「旭川医大が遠隔医療を活用し、過疎地域に対応できる新たな医療提供モデルを構築するべきだ。北海道と同じ課題を持つ過疎地域の医療に貢献できる」

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