奨学金、「本当に困っている家庭」に届かない?『産經新聞』2011年11月21日付

『産經新聞』2011年11月21日付

奨学金、「本当に困っている家庭」に届かない?

子どもの大学進学による教育費負担で頼りの一つとなるのが、奨学金です。旧日本育英会の奨学金のお世話になった経験のある保護者も、少なくないと思います。ところが最近、家計に余裕のない家庭の子どもほど、奨学金を借りるのをためらう傾向があるという指摘があります。

経 済協力開発機構(OECD)(外部のPDFにリンク)の国際比較によると、主な国の高等教育における私費負担率は、韓国77.7%、日本66.7%、イギ リス65.5%、アメリカ62.6%、カナダ41.3%、フランス18.3%、ドイツ14.6%などで、OECD平均は31.1%です。フランスやドイツ の私費負担率が少ないのは、大学の授業料が原則として無料だからです。一方、アメリカやカナダなどは、返済の必要のない給付型奨学金などが普及しており、 保護者などの「家計負担率」だけを見ると、韓国52.1%、イギリス51.5%、日本50.7%、アメリカ41.2%、カナダ19.9%などとなります。 また、イギリスは近く奨学金制度の改革を予定しており、原則として全員に授業料分の奨学金を支給、一定以上の年収を得られた段階で返済開始、卒業後30年 で返済額にかかわらず返済終了、という制度を導入することにしています。OECDは、日本や韓国を「授業料は高いが、学生支援の仕組みが比較的整備されて いない国々」と分類しています。

これに対して、独立行政法人日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金(外部のPDFにリンク)は、有利子 奨学金が全体の約8割、無利子奨学金が約2割で、返済の必要のない給付型奨学金はありません。有利子の場合、たとえば月10万円の奨学金を受けて卒業後 20年間で返すとすると、貸与総額480万円に対して、返済総額は645万9,510円になります。さらに、現在では返済が遅れると、年利10%の延滞金 が加算されることもあります。大学関係者などの間では「これでは金融機関の教育ローンと同じで、奨学金とは言えない」と批判する声も出ています。

また、同機構の調査によると、2009(平成21)年度の延滞理由の1位は「本人が低所得」49.1%(前年度比9.5ポイント増)で、延滞者の 68.6%は年収200万円未満でした。世界的不況による就職難、雇用形態の変化による非正規雇用の増加などが、背景にあると思われます。

こ のため、家計に余裕のない家庭の間では、奨学金を諦めて進学を断念する子どもが増えているのではないかと懸念する声があります。返済の≪余裕≫がある家庭 の子どもが奨学金を受けて、余裕のない家庭の子どもが奨学金を諦めるということがあるとすれば、まさに本末転倒でしょう。

このような状況を 受け、文部科学省(外部のPDFにリンク)は、返済のいらない給付型奨学金を創設することを決め、2012(平成24)年度予算案の概算要求に2万 1,000人分の経費を盛り込みました。ただ、財政事情の悪化により、財務省などが反発することは必至で、給付型奨学金が具体化されるかどうか、予算編成 のゆくえが注目されます。

(提供:Benesse教育情報サイト)

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