大学院大学創立 科学の力で平和の要石に『琉球新報』社説2011年11月21日付

『琉球新報』社説2011年11月21日付

大学院大学創立 科学の力で平和の要石に

 「世界最高水準の科学技術に関する研究・教育」を掲げる沖縄科学技術大学院大学の創立式典があった。学術、経済などの分野で沖縄振興につながることを期待したい。沖縄の子どもたちにも大きな刺激になろう。来年9月の開学へ向け、県を挙げてその後押しをしたい。

 式典で基調講演した米マサチューセッツ工科大学(MIT)のチャールズ・ベスト名誉学長は「研究系大学の目的は、『機会』を創造することだ」と語った。「機会創造」は、まさに大学院大学の設立目的を象徴する言葉だ。

 復帰40年近くたっても経済的自立の課題を抱える沖縄が、大学院大学の創立をどう自立へ向けた機会とするかだ。千載一遇のチャンスに全力を尽くしたい。

 技術系大学から新しい技術が生まれ、それに引き寄せられて企業が集積する。ハイテク産業が集まるシリコンバレーは、スタンフォード大学が産学協力の中心だ。シリコンバレーと並ぶ先端技術が集積するボストンは、MITが中心研究機関となっている。

 大学院大学から流れ出る技術、人材、アイデアが、沖縄に多くの先端産業を呼び込む。その実現に向けて知恵を絞りたい。

 ただ、成果を性急に求めることも禁物だろう。短時間で応用できる技術もあろうが、総じて基礎研究が花開くには時間がかかる。

 ノーベル化学賞を2008年に受賞した下村脩・米ボストン大名誉教授の研究は、オワンクラゲから抽出された緑色蛍光タンパク質の化学構造の解明だった。下村氏自身が当初は「何の応用価値もない」と考えていた研究だったが、10年以上もたった後、その成果はバイオテクノロジーの研究にとって不可欠なものとなっていた。

 ベスト名誉学長も講演の中で研究系大学がいつ、どのように地域経済を向上させるかは予測不可能として「忍耐が必要」とも述べた。期待しつつもじっくり待つ姿勢も問われる。

 かつて琉球は「万国津梁(しんりょう)」に象徴されるように大海の荒波へ乗り出し、東南アジアとの交易ルートを切り開いた。沖縄戦の結果、基地が置かれ、軍事面で「太平洋の要石」とされているが、沖縄の歴史、県民性からしても軍事より「平和の要石」が似合う。大学院大学はその中核になり得る。科学技術をもって万国の懸け橋となることこそ、新しい時代の沖縄にふさわしい。

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