国家公務員給与:人勧見送り、人事院が徹底抗戦 「違憲」主張 組織防衛の思惑『毎日新聞』2011年11月11日付

『毎日新聞』2011年11月11日付

国家公務員給与:人勧見送り、人事院が徹底抗戦 「違憲」主張 組織防衛の思惑 

 11年度の国家公務員給与について政府は、平均0・2%削減を決めた人事院勧告の実施を見送る方針を閣議決定する一方、平均7・8%引き下げる特例法案の成立を目指している。しかし、人勧が見送られれば、人事院廃止などを盛り込んだ「公務員制度改革関連法案」審議にはずみがつきかねないこともあり、人事院は「見送りは憲法違反」と強く抵抗。自民、公明党など野党側も同調する構えで、法案審議の紛糾は必至だ。【大場伸也】 

 「マラソンをすれば百メートル競走をしなくていいのか」。人事院の江利川毅総裁は9日の衆院予算委員会で、特例法案による大幅引き下げの実現により「(小幅引き下げの)人勧の趣旨は内包される」(川端達夫総務相)との政府側の説明に反論した。 

 国家公務員は、憲法28条の保障する団体交渉権や協約締結権などの「労働基本権」を制限され、労使交渉で給与水準を決めることもできない。そのため、人事院が中立の立場で、民間の給与水準に合わせた給与改定を内閣と国会に勧告。基本権制限の代償として、政府も人勧を尊重してきたことから、江利川氏は「人勧は憲法に基づく制度」と、見送りは憲法違反にあたるとの認識を示した。 

 民主党政権が人勧を見送った背景には、支持団体、連合の古賀伸明会長が10月11日、「人勧は実施すべきでない。特例法案成立に全力を挙げてほしい」と野田佳彦首相に迫ったことがある。連合は、特例法案とセットで▽人事院を廃止し「公務員庁」を新設▽給与など労働条件を人勧でなく労使交渉で決定--する改革関連法案を成立させるよう要求。民主党側も菅政権時代に両法案の同時成立を約束し、「給与を下げる代わりに基本権を拡充する」合意ができていた。 

 だが、カギを握る公明党の山口那津男代表は「憲法上疑義がないとは言い切れない」として、人勧を受け入れるべきだとの考えを表明した。自民党の石原伸晃幹事長も「人勧無視は憲法違反。(特例法案が)人勧を内包しているという乱暴な見解は通らない」と批判。自民党総務部会は2日、人勧実施のための給与法改正案を議員立法で今国会に提出することを決めた。 

 いずれも、次期衆院選までに民主党と連合の蜜月関係を崩したいとの思惑が見え隠れする。東日本大震災の復興財源捻出のための給与引き下げでは与野党ともほぼ一致するものの、人勧や人事院存廃を巡る隔たりは大きく、対立は激しさを増しそうだ。

 

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