人事院勧告見送り 不自然な状況 解消すべき『福井新聞』論説2011年11月10日付

『福井新聞』論説2011年11月10日付

人事院勧告見送り 不自然な状況 解消すべき

 本年度の国家公務員給与を平均0・23%引き下げるとした人事院勧告の実施を政府は見送ることを決めた。だが、そのままでは憲法に触れる可能性もあるとされる。野田内閣は公務員制度改革の道筋をあらためて説明する必要がある。大幅な給与削減だけが既定方針のように取り扱われている不自然な状況を、早く解消すべきだ。

 政府は勧告を実施しない代わり、東日本大震災の復興財源に充てるため、2013年度まで3年間平均7・8%の給与削減を盛り込んだ臨時特例法案の成立を図るとしている。勧告実施の見送りは、厳しい財政難で見送った1982年度以来29年ぶりのことだ。

 勧告を無視された人事院は「公務員の労働基本権を制約している代償措置の人勧が尊重されないと、憲法に抵触する恐れがある」と主張。野党の自民党も人勧に沿った給与法改正案を議員立法で提出する方針という。野田内閣は臨時特例法案の給与削減が大幅なので「人勧の趣旨を内包している」とし、憲法上問題がないことを強調しているが、そう言いきれるのか。

 震災の復興財源確保のため増税を国民にお願いしており、公務員20+ 件も給与削減を理解してほしいと菅前内閣以来、「情」に訴えてきた。しかしそれだけでは、ボーナス一律10%カットを含む大幅給与削減に、大多数の公務員は納得できないだろう。

 国会では、臨時特例法案と同時に成立させるとしていた国家公務員20+ 件制度改革関連法案も継続審議になっている。関連法案には、労働基本権の一部である協約締結権を付与する条文が盛り込まれている。給与や勤務時間などを組合との交渉で決めるようにし、現行の人事院勧告制度を廃止する内容だ。

 協約締結権の付与は菅前内閣が、給与を7・8%削減する見返りとして連合系公務員労働組合との交渉で約束した。野田内閣にも約束履行の義務がある。しかし自民党は協約締結権付与に反対しており、ねじれ国会で関連法案成立のめどは立っていない。

 組合側との給与削減交渉で、共産党系公務員20+ 件労働組合は「人勧を根拠としない削減は憲法違反」として反対した。組合に全く加入していない全体の半数近い公務員は、意見を表明する機会さえ奪われた。今回人勧実施が見送られ、臨時特例法案だけが成立した場合、組合などから損害賠償請求や憲法違反の訴訟が提起される可能性がある。

 国会で継続審議となっている国家公務員制度改革関連法案は、もともと自民党の安倍内閣が天下りあっせん禁止を掲げて成立させた公務員制度改革基本法に沿ったものだ。協約締結権付与のほかに、国家公務員の任用などを一括担当する公務員庁の設立など、現行制度の大幅改正を盛り込んでいる。

 公務員給与と制度改革はセットといえる。自民党も建設的な法案審議に臨むべきだ。

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