産学官と金融、連携が地域支える 室蘭の研究(4)『日本経済新聞』2011年9月11日付

『日本経済新聞』2011年9月11日付

産学官と金融、連携が地域支える 室蘭の研究(4)

 「この技術、社内でとどめておくのはもったいないですよ」。電子部品向けの光学ガラス研磨加工を手がけるマトラスターテクノクラシー(埼玉県鴻巣市)の室蘭工場は、2007年度から研究を重ねてきた研磨剤回収技術の製品化に方向を転換。昨年度、道内外の加工会社に4台を販売した。財団法人室蘭テクノセンター(室蘭市)から来たビジネスコーディネーターの一言がきっかけだった。

■強みや課題把握

 テクノセンターは室蘭市や登別市、伊達市が産業振興のために1986年設立。会社経営や大学での研究を経験してきたコーディネーターが“営業マン”さながらに地元企業を回り、各社が持つ技術の強みや、直面する課題を把握する。

 「下請けからの脱却を目指す意欲がある経営者」(コーディネーターの村上孝志氏)と共に新事業開拓へ知恵を絞り、市場調査などを通じて手助けをする。製品開発のための助成金制度も用意する。マトラスター社の事例もその一つ。当初は高価な研磨剤を回収してコストを削減することが技術開発の目的だったが、「助言により新規事業につながった」と一條英二リサイクル事業推進室リーダーは振り返る。

 中小製造業が抱える悩みは様々。その解決に室蘭の産学官連携ネットワークが一役買っている。テクノセンターがソフト面の支援を軸とするなら、地元国立大の室蘭工業大学は技術面で産業界に貢献している。

 室工大で共同研究や技術相談の窓口となる「地域共同研究開発(CRD)センター」。技術相談など持ち込まれる案件をこなすのではなく、専任コーディネーターが年に約150社を回り、大学の研究から生まれた技術のタネを紹介する。加賀寿センター長は「ものづくりの地域にある研究機関としてサービスする」と話す。地元の経営者が系列を超えて交流する場を提供するなど、企業ネットワークの醸成にも一役買う。

 さらに、両センターは、室蘭信用金庫や地方銀行、政府系金融機関の地元支店の担当者を交えて月1回のペースで、「コーディネーター連携会議」を開催。それぞれの取り組みについて情報共有している。地域を支える連携は「産学官金連携」に育ちつつある。

 ただし、これら連携の取り組みには限界も。室工大CRDセンターによると、企業との共同研究件数のうち道内企業との案件が占める割合は10年度で44%。6割を占めていた06年度に比べて15ポイント程度低下した。「先端分野での研究成果を目指す大学側の立場と、地元企業のニーズが乖離(かいり)してきた」と、加賀センター長は説明する。

 さらに、08年秋の金融危機以降、地域の企業は新分野開拓に慎重になっている。テクノセンターが用意する各種助成金制度の利用実績は金融危機以降、減少傾向にあるという。

■金属資源を回収

 そんななか、新産業創出の可能性を秘めた大型連携プロジェクトも動き出している。室工大の清水一道教授が座長を務め、室蘭を中心に道内外の企業が集う「室蘭シップリサイクル研究会」だ。

 大型廃船を室蘭港の埠頭に浮かべたまま効率的に解体し、鉄などの金属資源をリサイクルする。昨年、全長約180メートル、高さ約40メートルの自動車専用運搬船の解体実験を実施。14年の事業化を目指し、今年から第2期の活動が始まった。

 全国から注目を集めるプロジェクトだが、清水教授は「室蘭には素材を再利用できる製鉄業や、解体スペースを確保しやすい良港など、事業化に向けた条件がそろっている」と優位性を強調する。

 円高や中韓との競争激化など日本のものづくりを取り巻く環境は厳しい。室蘭でも生き残りに向けて、地域が一丸となった取り組みが求められる。

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