大学の情報公開 受験生や採用企業の視点で『読売新聞』社説2011年9月5日付

『読売新聞』社説2011年9月5日付

大学の情報公開 受験生や採用企業の視点で

 多くの大学は、まだ進学希望者や企業など利用者の側に立つ視点が欠けている。情報は幅広く開示すべきだ。

 国内の大学は今年4月から、入学者数や年間授業計画などの情報を公表するよう法律で義務づけられた。

 進学希望の高校生らに情報を活用してもらうため、学校教育法の施行規則が改正されたからだ。各大学は工夫を凝らし、ホームページに情報を掲載している。

 しかし、義務化の対象が、教員数や授業料、施設の概要といった基本的な情報にとどまっている現状では、およそ意味がない。

 どのような教育内容で、どんな知識や能力を身につけられるのか。詳しい就職実績や中途退学する人の割合(退学率)、学生の満足度調査の結果などは、自ら公開していないケースが多い。

 こうした具体的な情報こそ、高校生たちが志望校選びの参考にしたいと思っているはずだ。

 学生を採用する企業からは「成績評価の基準を明確に示してほしい」との声が上がっている。少しでも優秀な人材を確保したい企業としては当然の要望だ。

 「ありのままのデータを出せば、受験生に敬遠される」と、情報公開に消極的な大学もある。少子化の到来で大学間の学生獲得競争が厳しいことから、学生募集に悪影響を与えるような情報を出したくないとの思いがあるようだ。

 だが、大学は補助金や交付金の形で公的資金を受けており、社会への説明責任がある。大学側に不都合な情報を開示せずに学生募集を行うことは、人材育成を担う高等教育機関として許されまい。

 経営に問題を抱えているのなら、実態を明らかにすると同時に経営改善策を示し、受験生や保護者の理解を得るべきである。

 情報公開を通じて各大学が組織や授業内容を点検し、教育の質の向上につなげることが肝要だ。

 一方、文部科学省の専門家会議は先月、大学の発信する情報を集約したデータベースを構築するよう提言した。パソコン上で複数の大学の情報を比較可能にすることを目指すという。

 各大学は公表情報の一層の充実を迫られよう。

 日本の大学は留学生の獲得で欧米に後れをとっている。日本への留学を希望する海外の学生がデータベースを利用できるように工夫すれば、日本の大学の国際化を進める一助にもなるはずだ。

 データベースの外国語版を作ることも、今後の課題である。

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