大学発ベンチャー、相次いで上場 画像処理、創薬、3D『読売新聞』2011年8月17日付

『読売新聞』2011年8月17日付

大学発ベンチャー、相次いで上場 画像処理、創薬、3D

 大学での研究成果などを基に起業する大学発ベンチャー3社が6~7月に相次いで上場した。(河野越男)

 一時は続々と誕生した大学発ベンチャーは、人材や資金調達難などから急減していた。だが、新興企業の減少は市場や経済の活力を失わせるため、国内証券大手はベンチャー企業の発掘強化に改めて乗り出している。3社の上場がさらなる有望企業登場の呼び水になるか注目される。

◆上場相次ぐ

 7月21日に東証マザーズに上場した画像処理技術開発モルフォの16日の株価(終値)は6460円と、公開価格(2250円)の3倍弱に達している。

 モルフォは2004年に東大で画像処理を研究した平賀督基社長が、同じ研究室のメンバーら3人と設立した。

 主力技術は、携帯電話に搭載されたカメラの「手ぶれ」を補正するソフトウエアだ。NECやソニー・エリクソンなど国内携帯電話端末大手は続々とモルフォの技術を採用している。

 平賀社長は「技術力では海外メーカーを上回る」と自信を見せ、海外進出に意欲を見せる。

 東大出身者らが創業した創薬会社メビオファームも7月15日、東京証券取引所傘下のプロ投資家向け市場「東京AIM(エイム)」に上場し、法政大教授が設立した3D(3次元)グラフィックスベンチャー「ディジタルメディアプロフェッショナル」も6月23日に東証マザーズに上場した。

◆期待

 大学発ベンチャーの新規上場が相次いだのは、冷え込む市場に焦る証券会社やベンチャーキャピタル(VC)=ことば=が再び育成に力を入れている側面もある。

 10年に東証(マザーズ含む)に新規上場した会社数は12社と、香港(94社)やニューヨーク(89社)の両証取と比べると大幅に少ない。

 上場会社も第一生命保険や大塚製薬を傘下に持つ大塚ホールディングスなど老舗が多く「市場も『少子高齢化』だ」(関係者)との声も漏れる。

 大学発ベンチャーは、98年の大学等技術移転促進法(TLO法)の施行後急増し、累計では約2000社に達した。

 だが、経営に携わった経験に乏しい研究者が社長になるケースが多く、「人材確保」「資金調達」「販路開拓」の三つの課題を克服できずに、廃業や解散する企業も多い。

 こうした状況を打破しようと、野村証券は、未上場企業専門の営業部隊を設け、大学発ベンチャーの発掘に力を入れている。モルフォに出資したベンチャーキャピタルの東京大学エッジキャピタルは、04年から東大学内の研究成果の事業化支援に取り組んでいる。

 野村証券公開引受部の大村法生次長は、「エネルギーや農業では期待できる企業がある。ベンチャーの上場が増えれば、市場の活況につながる」と期待を寄せる。

ことば

 高い成長が見込める未上場企業に投資する企業や組織(投資ファンド)。投資家や金融機関から集めた資金を投資して株式を取得するとともに、取締役の派遣など企業価値を向上させる経営指導も行う。主に上場時に株式を売却して利益を得る。日本ベンチャーキャピタル協会によると、2011年1~3月期の投資総額は92億円で、リーマン・ショック前の08年7~9月期(94億円)に並ぶ水準まで回復している。

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