東大の秋入学案 実現には産官学の連携が要る『読売新聞』社説2011年7月10日付

『読売新聞』社説2011年7月10日付

東大の秋入学案 実現には産官学の連携が要る

 将来、大学の入学式は桜の季節ではなく、秋風の吹く頃に行われるようになるのだろうか。

 東京大学が、入学時期を春から秋へ移行する検討を始めた。秋入学が主流の欧米の大学と足並みを合わせることで、外国人留学生の受け入れや、日本人学生の海外留学を促進する狙いがあるようだ。

 東大によると、外国人留学生の比率は7%で、20%台の米ハーバード大や英ケンブリッジ大と大きな差がある。無論、外国人留学生には日本語という壁もあろう。

 だが、海外から留学生を呼び込める教育環境を整えなければ、大学間の国際的な競争に取り残されるという危機感は強い。

 秋入学の導入で、優秀な留学生が増えれば、大学の研究水準や、日本人学生の学力が高まることが期待される。

 広い視野と豊かな語学力を身につけ、国際的に活躍できる「グローバル人材」は、日本の経済成長の原動力になる。秋入学はその育成につながる可能性もある。

 東大は年内にも一定の結論を出す方針という。導入のメリット、デメリットなどを多角的に検討し、議論を十分深めてほしい。

 秋入学は、これまで政府の教育再生会議などが導入を提言してきた。2008年以降、入学と卒業の時期を学長の判断で決められるようになり、留学生らを対象にした秋入学を春入学と併用する大学も増えている。

 ただ、秋入学に全面移行した大学はまだない。仮に東大が秋入学にかじを切った場合、他大学の中には、同調する動きが出てくることも考えられる。

 東大では、入試日程は現行通りとし、合格者には秋入学までの半年間に、海外留学やボランティアなど、様々な経験を積んでもらうことを想定している。

 実現に向けての課題は多い。ボランティア活動を行おうにも、日本では受け皿が少ない。

 大学への入学を一定期間遅らせる「ギャップイヤー」の慣習がある英国では、その間の若者のボランティア活動を支援する民間団体が多数あるという。こうした環境を整えることが重要だ。

 卒業が4年後の秋になれば、主に3月卒業を前提にしている企業や官公庁の採用時期にも影響する。年間を通じて採用する方式の検討が必要になる。

 秋入学移行に必要な条件整備について、大学だけでなく、企業や官公庁も加わって、議論を始めてみてはどうだろうか。

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