京大入試投稿 不処分、付添人が会見『朝日新聞』2011年07月08日付

『朝日新聞』2011年07月08日付

京大入試投稿 不処分、付添人が会見

 ▽ 少年「ルール守り真面目に」 審判で心境や反省

 少年は「まじめに生きることで、反省の態度を示していきたい」と語ったという。新手のカンニングが司法の場で裁かれた京大入試ネット投稿問題は7日、山形家裁が不処分の決定を下し、決着した。付添人を務めた弁護士らは「これから再スタート。一日も早く『社会復帰』してほしい」と19歳の未来を思いやった。

 山形家裁の審判後、少年の付添人を務めた植田裕、阿部定治、青柳紀子の3氏が会見した。少年は審判の席で落ち着いて受け答えをし、心境や反省の気持ちを語ったという。会見の主なやり取りは次の通り。

 ――決定への感想は

 私たちも不処分を求めていた。裁判所の判断を尊重したい。

 ――付添人として、今回の事案は立件するようなものではないと思うか

 立件するかどうかは捜査当局が判断することだが、カンニングが偽計業務妨害にあたるかは学説も分かれている。慎重な判断を求めたということはある。

 ――少年の反応は

 裁判所の判断を受け入れたい、と。「他の人にかけた迷惑がすべて解決したとは思わないが、これからルールを破らず真面目に生きることで、反省の態度を示していきたい」と言った。

 ――どうしても合格しないといけないという強迫観念からカンニングした?

 いろんな面でお母さんに負担をかけたくないという気持ちはあったのだろう。

 ――少年は改めて大学受験を考えているのか

 まだ決められない状態だろう。ただ、「今までは大学に入ってからどういう仕事に就くか決めようと思っていたが、きちんと『こういうことをやりたい』という目的を持って大学に入りたい」と話していた。今は受験とかはまったく具体的には考えていない。

 ――母親に悩みなどを話す機会がなかったことがカンニングに影響したのか

 予備校の寮に入り、親元から離れていた。悩みを一人で抱え込むことがあったかも。「これからは色んな人に相談したり話を聞いたりして、一人で抱え込まずに頑張っていきたい」ということでした。

 ――審判を終えて、少年に対する思いは

 とにかく一つのけじめがついたということ。これから再スタートできるわけだから。一日も早く「社会復帰」してほしい。何か困ったことがあれば、すぐに相談してもらいたい。私たちも声かけをしていきたい。

 ◇ これからは前向きに生きて 非行事実認めた君へ

 ネットへの投稿が発覚した2月末から大震災が起きる直前まで、連日トップ級で報じられた新手のカンニング。京大が警察に被害届を出す事件に発展し、かんかんがくがくの議論も巻き起こした。

 一番驚いたのは、君かもしれない。もちろん許されない行為だけれど、受験会場で携帯電話を操作していた時、そんな大ごとになるとは夢にも思わなかっただろう。

 専門家の見方も割れる事案だった。「かつての替え玉受験では私文書偽造を適用し、業務妨害には当たらないとの考えが強かった。今回は業務妨害の範囲を採点業務や合否判定業務にまで広げた」と学習院大の西田典之教授。大阪大大学院の島岡まな教授は「業務妨害としたのは判例から一定の理解はできるが、学説の立場からは疑問もある」と言い、甲南大の渡辺修教授は「業務妨害を認めた決定は妥当。ネット社会にふさわしいモラル教育が必要」と主張する。

 付添人弁護士は当初、君が入試を妨害するつもりがなかったことなどから、偽計業務妨害とされた非行事実を争う方針だった。でも君は「世間を騒がせたことも含め全責任は自分にある」と考えた。非行事実を認めると言う君に、付添人が折れた。それは一つの立派な態度だと、僕は思う。裁判所が非行事実を認めながらも「保護処分は必要ない」と決定したのも、君の姿勢を受けとめた結果だ。

 この決定で、君も社会も一つの区切りを迎えた。君が語ったように「大学に入る目的」ができたとき、もう一度受験にチャレンジしたっていい。そしてお母さんを大切にしながら、前向きに生きてほしい。そんな君を応援する人は大勢いるはずだ。(西尾邦明)

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