『日本経済新聞』2011年6月11日付
国家公務員給与下げ、復興増税へ地ならし 政府、合理化努力アピール
政府は国家公務員の給与引き下げに向けた関連法案を閣議決定し、国会に提出した。下げ幅は平均で約8%。公務員給与は人事院勧告に基づいて決めるのが慣例だが、労使交渉での賃下げは戦後の混乱期を除けば初めてとなる。東日本大震災からの復興費を賄う臨時増税や消費税率引き上げを視野に、政府が自ら身を切る姿勢を示した形だが、これだけで納税者の納得を得られるかどうかは不透明だ。
5月13日、東京・霞が関の合同庁舎2号館。総務省の省議室で政府と国家公務員の労使交渉は始まった。「心苦しいが1割カットを提案させてほしい」。硬い表情の労働組合幹部に、政府代表として参加した片山善博総務相は切り出した。
伏線は2009年の衆院選で敷かれた。民主党は政権公約の柱に「国家公務員の総人件費の2割削減」を明記。衆院議員任期の終わる13年度までに達成するとしていた。
それが3月11日の東日本大震災で一気に現実味を帯びた。インフラ整備など震災復興費が10兆円から15兆円にのぼるとの見方が浮上。「財政事情は極めて厳しい。一層の歳出削減が不可欠だ」。菅直人首相は6月3日の閣議で宣言した。
復興費を賄う臨時増税を視野に、国民に歳出合理化努力をアピールしたい菅政権。強硬姿勢で臨む政府側に対し、労組側には「未曽有の震災被害からの復興という錦の御旗に抵抗できる状況ではなかった」(連合系幹部)との判断が広がった。
企業が雇用や給与の削減などリストラを進めるなか「民間に比べて公務員は優遇されている」との逆風を感じ、「民主党政権下でいずれ賃下げになる」との覚悟も一部組合員にはあった。
全労連系労組が妥協しないまま、政府と連合系労組が23日に合意。削減幅は一般職の本省課長・室長級以上で10%。国家公務員全体では平均7.8%で折り合った。首相の3割削減をはじめ閣僚や在外公館の大使らも賃下げ対象になる。震災対応に追われる自衛官らは半年、削減を猶予する。
人事院勧告に基づいて決めていた直近10年間の公務員給与水準は、デフレで物価下落が続いていたにもかかわらず、年0.1~2.6%の引き下げにとどまっていた。
今回のカット率はそれに比べれば大きいが、それでも歳出を削減できるのは年間約2900億円。民主党が政権公約に掲げた総人件費の2割削減(1.1兆円減)には遠く及ばない。
野党は公務員給与下げに基本的に同調するとみられるが、菅首相の進退問題が迷走するなか、関連法案が成立するかどうか不透明な部分も残る。