国公労連速報 2011年6月2日《No.2562》
給与削減問題で最終大臣交渉 政府は提案強行の構え、閣議決定へ 組合側強く抗議 削減反対署名16万5千筆に
国公労連は2日、自治労連、全教のメンバーも含め、公務員給与削減問題で片山総務大臣との最終交渉を実施しました。予定を遙かに上回るほぼ1時間にわたり、改めて組合側の論点を主張し政府側の見解を求めましたが、最終的に片山総務大臣は、提案どおりの内容で法案を提出する意向を正式に表明。組合側は「一方の組合との合意で全体に賃下げを押しつけることは不当」「アリバイ作りのための交渉だったのか」などと強く抗議しました。なお、交渉に際し、組合側は「公務員賃金の引き下げに反対する要求署名」13,712筆分、職場決議777団体分を追加提出。同署名の総計は既提出分を含め165,366筆分、職場決議は7,882団体となりました。
冒頭、宮垣委員長は「5月13日に大臣から提案があって以降、政務官と3度、人事・恩給局長と1度、交渉を重ねてきた。しかし、依然、賃下げの理由と根拠、経済・景気へのマイナス波及、職員のモチベーション低下、現行制度下でのルール問題などに関して、納得できる説明は果たされず、論議が平行線のままだ。本日は、大臣から政府としての統一的な見解をお聞かせ願いたい」と発言。それに対し、片山大臣は「組合の主張に対して改めて考え方を整理してみたい」と前置きしながら、以下のように、これまでと同様の回答を繰り返すのみで、「総務省前の発言にも共感する部分がない訳ではないが、現下の政府、財政が置かれた事情を考えると(提案は)心苦しいが、ぜひ受け止めてほしい」と提案どおり強行する姿勢を明らかにしました。
● 給与削減の理由 : 民主党のマニフェスト「総人件費2割削減」を金科玉条にしたものではない。元々公務員給与の現状、財政事情、国民世論の動向を見ながら進めてきたことで、その過程で起きた大震災でいっそう財政事情が厳しくなり、やむを得ない措置として提案したもの。今後マニフェストがどうなるかについては現段階では論じるわけにはいかない。
● 経済への影響 : 可処分所得減少で家計支出への影響が何らか出ることは事実。しかし景気に影響する要素は公務員給与だけでなく、震災復興過程で相当投資が増えることが景気を押し上げる効果もあり、全体として判断する必要がある。
● 地方公務員・教員への影響 : 今回の交渉は国家公務員の労組に限定して、交渉による(給与)決定をいわば先取りする形でやっているもの。私としては地方公務員の労組と交渉する立場にはないし、地方公務員の給与は国家公務員に右ならえというのも論理的ではない。従来は国家公務員の勧告に似かよった人事委員会勧告が出ていたので、そういうこともありがちだったが、今回は全くステージが違うので、国に準じてと言うつもりはない。地方財政の財源措置の抑制のようなこともやるべきでない。
● 被災地復興に努力している職員の士気への影響 : 国も地方も各種のルートで現地に職員が派遣され、専門的知識や経験を発揮しながら復興に向けて役割を果たしていることは承知している。その中での提案は心苦しいが、厳しい財政事情からあえてやらざるを得ない。公務員の皆さんにも理解の上協力してほしいということに尽きる。
● 労働基本権回復なしの賃下げは違憲・違法か : 本来、労働基本権を整理した上で給与を論ずるのが一番まっとうなやり方だ。しかし、昨年の人勧処理の段階で決定したとおり、労働基本権決着前の異例の取り扱いでそれを先取りする形で決めたいと表明していたもの。こうしてある程度時間をとって合意を得られるよう鋭意やってきたつもり。交渉がはじけた場合にどうするかだが、最後は国会が決めるのであり、最後の担保は勤務条件法定主義だ。また提案内容は25年度までの臨時・時限的措置であり、現行憲法の枠組みでも臨時・異例の措置として許されると考える。
この回答に宮垣委員長は次のように反論し、政府側の強行姿勢を追求しました。
○ 復興財源は国家公務員の賃金の一部をカットして確保できる金額とは桁違いであり、それに見合った財源論議が必要だ。真っ先に人件費に手を付ける前に、米軍思いやり予算や政党助成金など検討すべきものは沢山ある。また、社会保障と税の一体改革で消費税増税も取りざたされているように、公務員賃金カットは国民負担増・増税の露払いであり、その点からも断じて認められない。
○ 公務員の賃下げは、景気回復に逆行するものだ。労働総研の試算でも、公務関連はもとより民間労働者の賃金にも影響し、賃下げによる消費の冷え込みで国内生産の減少、国と地方の税収の減少にもつながることが明らかにされている。
○ 地方公務員に波及しないというが、財務省は交付税を削減する方針だとも報道されている。波及しないと言っても、政府として統一した見解なのかについても疑問がある。
○ 国と地方の公務員は全体の奉仕者としての使命感から復興活動などに日夜がんばっている。自衛隊員、海上保安庁の職員、消防庁の職員や警察だけでなく、その他の公務員も奮闘している。その労苦に報いるのになぜ賃下げなのか。今やるべきことは被災者本位の復旧・復興に向けた緊急増員をふくむ行政体制の拡充ではないのか。
○ 人勧制度の下で、政府の判断で法案を出しても国会で承認されればよいという認識は問題だ。そうなれば勤労者としての公務員の権利はどうなるのか。政府は自律的な労使関係制度の先取りというが、「いいとこどり」でしかない。自律的労使関係制度の関連法案をめぐっては同じ時間に内閣府と議論しているが、法案には多くの問題点がある。
○ 議論が平行線で、私たちと合意できない以上、改めて提案の撤回を求める。
それに対して、大臣は「財源関係では公共事業を大幅にカットしたし、社会保障費を自然増と比例的に増やさないなどの努力もしており、公務員給与のみにしわ寄せするものではない」「カット分は第2次補正の財源に入るし、それ以降の国債増発も景気押し上げ効果をうむ」「地方公務員へ波及させないことについては、政府内部での論争を経て政府としての統一見解として、国会で総理や財務大臣の前でも説明している」「削減は心苦しいが、被災者の再建支援策には膨大な金額を要する。例えば住宅再建では1戸につき300万円必要だがそれが10万戸以上ある。生業支援で過疎化を防ぐ必要もある。職員の粉骨砕身の努力には頭が下がるが、被災者のための当面の乗り切りという両方を勘案した結果の不本意で心苦しい措置だということに理解をお願いしたい」「(自律的労使関係制度の)『いいとこどり』と言われても仕方ない面はあるが、厳しい財政事情の中での臨時・異例の措置、時限的であること、若い人などに相応の配慮をすること、国会に最終結論をゆだねていること――ということで、国民にも理解いただけると期待している」と再回答しました。
この回答に宮垣委員長は「我々が納得できないままに国会に法案をだすのではなく、納得できるまで引き続き交渉を継続すべきだ。継続できないというなら提案は撤回すべきだ」と強く迫りました。それに対し大臣は「気持ちは理解できるが、議論を続けても平行線の可能性が強い。一方、政府としては会期も念頭にどこかで結論をださねばならない。今回の提案と一体で議論してきた労働基本権回復関連も近々政府として結論を出す時期にきている。合意・円満の形が最良だが、それがなくても法案を提出し、国民の代表である国会に諮らざるをえず、その点は曲げて理解をお願いしたい」「今回合意がえられなくても、これからもいろんなことで率直に話し合える関係にはなりたいと思う」と回答。
これに対して、組合側は「政府が合意がないまま法案を決定するとしても、現状では我々には対抗手段もなく、協約締結権も回復していない。一方の組合と合意したことをもって職員全体に賃下げを強要するようなことになれば、我々も話し合いは続けたいが、今後の労使関係にも重大な影響を与える」「地方へ波及させないといっても、すでに何人かの知事が削減を表明しており、影響は必至だ。昨年秋の時点と現在とでは国民世論にも大きな違いがある」「被災地では復興を口実にがんばっている公務員の給与が下げられるのは心苦しいという声も多い」と反論。
大臣は「全国知事会に対し今回の措置はあくまで国家公務員のものと説明してある。地方公務員給与は(自治体ごとに)まちまちで一律にはいかず、それぞれ現状を踏まえながら本来の決定基準(生計費、他の団体の給与、民間賃金、国家公務員賃金)に沿って検討すべきであるとも述べた」などと回答。
最後に、宮垣委員長は「これまで意を尽くして説明してきた私たちの主張が理解されないのは残念だ。この結果を被災地で今も職務に専念している組合員にどう説明してよいものか苦慮している。政府はあくまで賃下げ法案の決定を強行する構えだが、国会での審議段階では、各議員にも訴え、政府と私たちのどちらに大義があるかを判断してもらうつもりだ。国民にも同様に判断してもらう。政府は誠意を尽くして交渉するといったが、時間がきたから国会に出すというのでは、労使関係制度のいいとこどりでアリバイ作りの交渉ではないか」と、改めて政府側の姿勢を厳しく追及しました。しかし、大臣は「今回に至っても合意に達しないことは大変残念だ。せめて臨時・異例の措置に賛成はともかく理解はしてほしかった。あらかじめ内容、スケジュールを決めて交渉に臨んだのではなく決してアリバイ作りではない。地方公務員への波及問題は交渉を通じて確信したことだ」「残念な結果だが(法案を)国会に出すことになるが、皆さんの主張は堂々と言ったらよい。政府としても国会の場で事情や考え方を話すし、結果は国会での結論に従うことになる」と回答・コメントするにとどまりました。
以上