大学発特許の「権利移転」、大阪大が首位 医療・素材など事業化意欲強く 『日本経済新聞』2011年5月21日付

『日本経済新聞』2011年5月21日付

大学発特許の「権利移転」、大阪大が首位 医療・素材など事業化意欲強く

共同出願は東北大、トヨタが首位 特許分析会社が初調査

 特許分析を手がけるパテント・リザルト(東京・台東、白山隆社長)が大学や技術移転機関(TLO)を対象に算出した「名義変更・権利移転ランキング」で、大阪大学が首位となった。特許の審査過程で出願人の名義が大学から他者に変更されたり、特許権利化後に権利移転(技術移転)が行われた件数を集計したもので、大学が生み出した技術が産業界で活用されている度合いの目安となる。私立大学では10位に慶応義塾大学が入った。大学と企業が特許を共同出願するケースも多く、大学では東北大学、企業ではトヨタ自動車が最も活発に取り組んでいた。

 1993年以降に公開された特許を調べた。同ランキングの作成は初めて。1位の大阪大学はこれまで109件の特許を企業などに名義変更したり、権利移転した。他者(企業、団体など)から大阪大学への名義変更や権利移転は11件だった。

 大阪大学の特許出願件数は1443件で、東北大学の2023件、東京工業大学の1923件などに比べて少ないが、大学が創出した技術を企業などが取得し、事業化に活用されていることが分かる。

 パテント・リザルトは「名義変更や権利移転された特許の中身を詳しく見ると、阪大は審査請求に至る前に申請を取り下げたり、審査で新規性がないとして拒絶査定になったりした件数が非常に少ない」(荒木則夫執行役員)と指摘する。取り下げとは、いったん申請したものの技術が活用される見込みが少ないと判断し、費用を要する審査請求をあえて行わないケースを指す。阪大の場合は、大学側の権利化意欲の強さや、技術の中身の質の高さがうかがえる。

 109件の技術分野を特許庁の技術単位ごとに見ると「生命・環境部門」の「医療」が18件、「物理部門」の「材料分析」が12件などだった。例えば医療分野では「リンパ管新生促進剤」に関する特許を、大阪大学寄付講座教授が創業したベンチャーで東証マザーズ上場の遺伝子医薬品研究開発、アンジェスMGに権利移転している。

 また「半導体機器」(9件)や「有機化学」(8件)分野では「(電力制御用のパワー半導体デバイスとしても用いられる)チタンシリコンカーバイド基板上のオーミック電極形成方法」や、排ガス浄化用触媒に応用できる「アミジン―カルボン酸錯体」に関する複数の特許がトヨタ自動車に名義変更されている。

 3位には東京工業大学が入った。「半導体機器」(12件)や「無機化学」(9件)、「有機化学」(8件)分野でキヤノンや東洋紡、旭化成せんい、東レ、ユニチカなど多くの企業に名義変更や権利移転を行っている。

 研究資金が豊富な国立大が上位を占めるなか、私大の最高ランクは慶応義塾大学の10位だった。「材料分析」(8件)などの分野で大学発の技術が事業化に生かされている。

 大学やTLOからの名義変更や権利移転先として件数が多い企業上位3位は、がん治療薬開発で東証マザーズ上場のオンコセラピー・サイエンス、パナソニック、トヨタ自動車の順だった。

 またパテント・リザルトは大学やTLOが企業と行う共同出願の状況についても初めて分析した。

 それによると企業との共同出願が最も多いのは東北大学で、2位が東京大学、3位は京都大学と続いた。企業側ではトヨタ自動車が549件でトップ。2位はNTTの266件、3位は三菱化学で242件だった。

 パテント社によると、京都大学はNTTと移動無線通信の分野での共同出願が多い。また有機EL関連技術や強化プラスチック材料などに関しても共同出願が目立つ。東大の場合は車両用のサスペンションや電気自動車、ナビゲーションなどについてトヨタ自動車と共同出願しているほか、日産自動車とは自動車向け塗料やコーティング材に関する共同出願が多い。

 文部科学省によると、大学や高等専門学校などの特許出願件数は2009年度に前年度比7%減少した。大学と民間企業との産学連携は、ライフサイエンスやナノテクノロジー・材料、環境の各分野で伸びが目立つものの、リーマン・ショック後の経済不況を受け停滞気味だ。経費の見直しや削減を急ぐ企業は、大学発の研究成果や特許などの知的財産権を活用した事業化においてもプロジェクトを厳選する傾向を強めている。

 大学は必ずしもビジネスに直結したテーマのみを扱っている訳ではないが、エネルギーや環境、生命工学など中長期的な時間軸で社会の課題解決につながる研究も多い。これらの研究成果を企業や社会のニーズに合った形でどう生かしていくのか、大学にはこれまで以上に技術移転と事業化を進めるための知恵が求められている。

【調査の方法】1993年以降に公開された特許公報を基に「公報発行時の出願人」と「経過情報に基づいた権利者(出願人)」の変動分を調査した。「各大学・TLOから他者(社)へ」および「他者(社)から各大学・TLOへ」と名義変更・権利移転した件数を集計した。TLOに関しては、名義変更や権利移転の対象が大学や研究機関というケースが全体の3割程度を占める。

 共同出願状況は、大学と企業や個人の共同出願人数の総数を算出、ランキング化した。

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