キャンパる:東日本大震災 被災した筑波大 施設などに被害70億円『毎日新聞』2011年4月22日付

『毎日新聞』2011年4月22日付

キャンパる:東日本大震災 被災した筑波大 施設などに被害70億円

 東日本大震災の影響により、東北、関東の多くの大学で卒業式、入学式の中止や延期が相次いだ。震源地から比較的近く、震度6弱の地震で被災した筑波大学(茨城県つくば市)を取材した。【筑波大・萩尾奈緒香】

 ◇災害本部が機能、人的被害なし 20日に青空入学式

 春休み中の3月11日。穏やかな空気が流れていた筑波大学は、騒然とした空気に一変した。地震直後に災害対策本部を設置し、学内の安全確保にあたった。

 同本部は、大学が災害時の緊急対応として想定していた「危機対策本部組織・命令系統」を基に設置された。学長が本部長に、総務担当の副学長が副本部長となり、各担当部門へ指示や情報を伝達する。

 今回の地震発生時は学長が出張で不在だったため、マニュアルに従い総務担当の鈴木久敏副学長が本部長を務めることに。後の調査で、体育館や図書館、講堂などの施設・設備に約70億円相当の被害を受けたものの、比較的被害の少なかった公用車の車庫を拠点に本部が始動。教職員と学生の計約2万人の安否確認を進めた。一部の留学生との連絡に時間がかかったものの、13日に全員の無事を確認。ほかにも、常駐している警備会社と構内の安全確認を行ったが、火災発生やエレベーターに閉じ込められるなどの事故もなかった。

 職員は、ライフラインの停止した学生宿舎にいた学生約550人を学内の避難場所へ誘導し、防寒のための石油ストーブや食料の買い出しに奔走。幸い、大学OBが勤める金融機関の支店が断水を免れ、水道水を分けてもらったり、つくば市からはおにぎりなどの食料提供を受けることができた。

 電気、水、ガスなどのライフラインは2日以上途絶えた。しかし、災害対応は比較的円滑に行われ、大きなパニックは見られなかったという。

 ただ、トイレ用水や講堂の安全性が確保できず、やむを得ず卒業式と後期の入学試験は中止された。新学期の授業は予定通り4月13日に開始。入学式は延期されたが、20日の昼休みを利用し、同大陸上競技場での青空入学式が行われた。

 また、岩手、宮城、福島各県出身の学生は少なくとも約400人おり、学費免除制度などにこれまで20件以上の相談があったという。

 鈴木本部長は「人命にかかわる被害がなかったのは奇跡としか言いようがない」と語るが、このような大規模な震災で、災害対策本部が迅速に機能した背景には、大学の危機管理部署の日ごろの努力が大きいという。震災発生数日前には、全職員で避難訓練を実施し、本部設置の確認を行ったばかりだった。

 しかし、災害を想定したライフライン確保への備えが不十分だったこと、非常食の備蓄がなかったことは、今後の課題だという。鈴木本部長は「安全性を確認した上で、教育研究の場を提供することが大学の役割だ」と話す。

 8割以上の学生が1人暮らしをする筑波大学。安全に学べる大学の取り組みに期待したい。

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